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コンクリート製石垣の間で栽培される「久能いちご」 濃厚な甘さとみずみずしさに舌鼓 静岡  味・旅・遊

産経ニュース 2025年2月2日 8時30分

イチゴが美味しい時期になってきた。産地でもぎたてを味わえば格別だ。「観光イチゴ狩り発祥の地」と言われる静岡市の久能(くのう)地区。徳川家康が祭られている国宝・久能山東照宮でも知られるこの地は、今も盛んにイチゴ栽培がおこなわれている。

駿河湾沿いの国道150号を市街地から世界遺産の名勝「三保松原(みほのまつばら)」方面に進むと、左手に久能山が見えてくる。と同時に、麓の斜面に所狭しと並ぶビニールハウス群が目に入る。このあたりからの国道150号は、別名「久能いちご海岸通り」と呼ばれ、県内を代表する伝統的なイチゴの一大産地となっている。

東照宮の参道脇に

久能山東照宮に続く参道の両脇にも、イチゴの直売所や農園が軒を連ねる。明治時代中ごろ、川島常吉という人物が久能山東照宮の宮司からイチゴの鉢をもらい、これを久能山麓の参道横石垣の間で栽培したのが「久能いちご」の始まりとされる。

その後、昭和40年ごろに久能山東照宮の参拝者らにイチゴ農園を開放する事業者が出てきたことから、「観光イチゴ狩り発祥の地」と言われるようになったという。

ここのイチゴは今でも石垣で栽培する独特のスタイルを踏襲しており、「石垣いちご」とも呼ばれている。南向きの斜面に広がる日当たりのいいイチゴ畑は、冬場にビニールをかぶせるものの、静岡の温暖な気候と石垣の保温・保湿効果のおかげで、暖房は使わない。

久能山東照宮参道に直売店「春光園」を構える川島松明さん(76)によると、周辺一帯の栽培品種は静岡発祥の「章姫(あきひめ)」が主流。他は静岡で生まれた「紅ほっぺ」などもある。 栽培に使用する石垣は当初、石を積み上げて作っていたが、栽培用に作られたコンクリート製のものに変わった。その石垣の間には肥料を加えた土が敷かれ、その肥料や土にも工夫が凝らされている。

暖房などを用いないことから、生産は気象条件の影響を大きく受ける。「昨年の夏は暑かったため、章姫以外の生育があまりよくない」という。とはいえ、「章姫は作柄もよく、ここにきて実りもいい」。

〝ここでしか〟の味

川島さんにイチゴ畑を案内してもらった。棚のように組まれた石垣状のコンクリートブロックの隙間から、真っ赤に実った鈴なりのイチゴがのぞく。これなら、かがむことなくイチゴ狩りができそうだ。

「これ食べてみて」

川島さんからもらったイチゴは、みずみずしさもさることながら、濃厚な甘さが印象的だった。いまや〝静岡イチゴ〟の代名詞となった「章姫」は、酸味が少なく高い糖度が特徴とされる。

「よくイチゴに練乳をつけたりするけど、これはそのままが一番だよ」と川島さん。その言葉通りだ。

「章姫」は柔らいことから長距離の輸送には向かないという。だからこそのイチゴ狩りなのかもしれない。まさに〝ここでしか味わえない〟といったところだ。駿河湾を見下ろす景色のよい斜面でのイチゴ狩りも魅力の一つだ。

ここまで来たなら、参道を上って久能山東照宮を訪ねたい。1159段の石段は健脚が試されるが、「権現造り」と呼ばれる建築様式で建てられた御社殿は見ておきたい。北西方向に数キロ進めば、「三保松原」もあり、歌川広重も描いた絶景が広がる。まさに「観光イチゴ狩り」だ。

(青山博美)

久能いちご 静岡市の駿河区と清水区にまたがる久能地区に集積する農園が斜面に組み上げた石垣で栽培したイチゴ。イチゴ狩りは5月ごろまで。料金は2千~2500円ほどで30分食べ放題が楽しめる。同地区のイチゴ農園へは東名高速道路の静岡、清水両インターチェンジから約15分。

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