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それ、高齢者の鬱病かも…認知症と間違われやすい 早めに受診を 100歳時代の歩き方

産経ニュース 2024年9月15日 9時0分

高齢者にもの忘れや頭痛、腰痛などの症状が続くと、認知症や身体疾患を疑いがちだが、鬱病の場合もあるという。鬱病でもの忘れや身体的な症状が前面に出て、心の症状が目立たないことがあり、認知症などと見分けるのが難しい面があるのだ。鬱病は治療で改善が望めるとされるため、何らかの症状が出た場合は鬱病の可能性も疑い、早期に適切な診断と治療を受けることが重要だ。

6割が内科受診

川崎市中原区にある精神科・心療内科の「長谷川診療所」に数年前、娘に付き添われた77歳の女性が診察に訪れた。女性は夫を介護している際に不眠などの症状が出て、内科クリニックを受診していた。しかし改善せず、家族は「認知症」を疑って長谷川診療所を訪ねた。

診察の結果、認知症ではなく鬱病の治療を進め、投薬を始めてみると、初診から約6週間で症状は改善した。「きちんとした治療に結びつけられた」。女性の症状に悩んでいた家族は、安堵の声を漏らしたという。

鬱病は、抑鬱気分や物事への興味を失った状態などが続き、頭痛や睡眠障害など、心と体の両方に症状が表れる。高齢者の場合は、認知症との鑑別が難しいとされる。

なぜ認知症と混同されやすいのか。「東京さつきホスピタル」(東京都調布市)の精神科医、上田諭氏は「現在の医学常識では、高齢者で元気がないと認知症を疑う風潮があるからだ」と説明する。

国内外の研究によると、軽度アルツハイマー型認知症に最も表れやすい周辺症状は無関心、感情が乏しいといったものとされる。アパシー(無気力症候群)と呼ばれるもので、上田氏は「実際の臨床では、アルツハイマー型認知症は元気な患者が多い。しかし研究を過信していると、鬱の症状を認知症の症状であるアパシーと疑い、誤診が生じるリスクになる」とみる。

精神科などを受診する心理的ハードルも影響していそうだ。ある心療内科医の調査では、鬱の症状のある人の64.7%が最初に内科を受診していた。精神科を受診したのは5.6%、心療内科は3.8%にとどまっていたという。

長谷川診療所の精神科医、長谷川洋院長は「体の不調を覚える人の多くは、その原因が鬱病だとは思わない。精神科にかかる抵抗感がある人もいるのではないか」と話す。その結果、適切な治療を受けられていない人が散見されるのが実情だという。長谷川氏は「治療が不十分なまま症状が長引き、重症化する可能性がある」と訴える。

脳の働きの変調

高齢者特有の状況も問題を複雑化する。

上田氏は、鬱病には①脳の不調・変調が原因の「身体性(内因性)鬱」と②喪失体験など強いストレスで発症する「心理性鬱」-があるとする。高齢者は退職や配偶者との死別などの喪失体験が生じやすく、発症のきっかけとなることがある(②)。

一方で、悩みごとや嫌な出来事など特別な原因がなくても発症し、手術が成功した後に鬱病になることもあるという。脳の働きの変調と考えられるが(①)、詳しいメカニズムは不明で、決定的な予防策も見いだせていない。高齢者は発症の要因が分かりづらく、鬱病の可能性が見えにくくなっている側面もあるのだ。

鬱病は、適切な治療をすれば、確実に回復が望める病気だとされる。長谷川氏によると、鬱病に対しては主に抗鬱薬による薬物治療が行われ、毎日服用していれば1、2カ月で改善の結果が出ることが多い。

長谷川氏は「鬱病には専門医による慎重な見極めと対応が大切だ」、上田氏も「異変があれば、すぐに医師に相談してほしい」と話す。認知症のような症状でも鬱病の可能性も疑って、早期の治療につなげることが重要といえる。(王美慧)

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