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建設費「最大5兆円」 費用対効果示されず、募る国への不信感 北陸新幹線の大阪延伸

産経ニュース 2024年9月16日 7時0分

北陸新幹線の金沢-敦賀(福井県)間の延伸開業から16日で半年となった。未着工の敦賀-新大阪間を巡り、国土交通省は8月、与党の整備新幹線建設推進プロジェクトチームに対し、工期や建設費への影響が大きい「京都新駅」の位置を記した3つの詳細ルート案を提示した。想定工期は最長で28年程度。与党側は年内にルートを決定し令和7年度中の着工を目指す方針だが、上振れする建設費負担のあり方など課題は山積している。

「国側は京都府の理解を得た上で、早期に延伸ルートを決定すべきだ」

大阪府の吉村洋文知事は14日、産経新聞の取材にこう述べた。同時に「新たなルート案で本当に採算が成り立つのか。早く費用対効果を示すのが筋だ」と指摘し、国への不信感もにじませた。

想定上回る工期、最長28年

国交省は3つのルート案で、大半を占めるトンネル工事に約20年、新大阪駅の工事に約25年かかるとの想定を示した。京都新駅の工事に要する期間は20~28年程度と、案によって違いがあった。

京都新駅の位置は、①京都駅南側の東西(東西案)②京都駅南西側の南北(南北案)③京都駅から南西約5キロのJR桂川駅近く(桂川案)―とされ、いずれもホームは地下に設けられる。

3案の建設費と京都新駅の工期を比較すると①の東西案では、京都市営地下鉄烏丸線の構造物を支えながら建設するため工期は最も長い約28年。建設費は約3兆7千億円に上る。

②の南北案は、ほかの2案と比べ工期は約20年と最も短い。ただ、①や③は地下40メートルよりも深い「大深度地下」を通るものの、②では駅が地下約20メートルに位置するため、新たに用地買収が必要となる。こうした点が影響し建設費は約3兆9千億円にまで膨らんだ。

③の桂川案は、約3兆4千億円と建設費が最も安かったが、JR東海道線が近くを通ることから難工事が予想され、工期は約26年だった。

トンネル工事に伴う地下水への影響は「発生しないと考える」とした。

沿線自治体「負担軽減を」

京都新駅付近を除く敦賀-新大阪間のルートは3案とも共通で、大部分がトンネル区間だ。敦賀から西進しJR東小浜駅近くの「小浜新駅」を通り、京都市街地へ向け山岳トンネルを南下。京都新駅から京田辺市付近の「松井山手新駅」を経由し、新大阪駅へ向かう。

建設費は年2%の物価上昇が続くと仮定した場合、3案とも5兆円前後と想定している。費用対効果に関する冒頭の吉村氏の懸念は、こうした影響を踏まえたものだ。

3つのルート案公表を受け、関西経済連合会など6つの経済団体は共同声明で「早期全線整備に向けた大きな前進」と評価しつつ「工期は想定を上回る期間が示された」と懸念をあらわにした。

建設費の上振れは、沿線自治体の財政負担の増大につながる。ある自治体関係者は「国には地方負担の軽減を求め続けたい」としている。

災害時の代替ルートに

北陸新幹線の大阪延伸は、災害が発生した場合などに、東京と大阪を結ぶ東海道新幹線の代替ルートとして、重要なインフラの役割を果たすことが期待されている。

8月に台風7号と10号が日本列島にそれぞれ接近・上陸した際は、東海道新幹線で計画運休が実施され、東西間の移動需要に対応するため北陸新幹線で臨時列車を運行。敦賀で新幹線と接続する特急「サンダーバード」も臨時で増発された。

台風10号などの影響で東海道新幹線の運転がストップした8月30日、東京の単身赴任先から北陸新幹線で夫が帰省したという大阪市の40代女性は「一時は、夏休みを家族で過ごすことをあきらめようと思った」と振り返る。移動時間は東海道新幹線の2倍以上となる5時間超えだったが「北陸回りという選択肢があるのは、いざというときに非常に心強い」と語る。

南海トラフ巨大地震などの大規模災害が発生した場合、東海道新幹線が長期間にわたり不通となる可能性も考えられる。関西の経済界は北陸新幹線を「東西の断絶リスクを大幅に軽減し、災害に強い強靱(きょうじん)な国土づくりに必要不可欠な高速交通インフラ」と位置づけ、早期の全線開業を求めている。(岡嶋大城)

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