鬱蒼(うっそう)とした森の中を通る県道11号熊谷小川秩父線。小川町から秩父方面へ車を走らせると、大きな赤い店旗が見えてくる。
店主の小宮芳隆さん(82)と妻の貞子さん(77)で切り盛りしているため、提供するのは「本日のメニュー」が中心だ。記者が訪れた日は「からみきんぴら鬼うどん」の冷やしぶっかけと、温かいぶっかけ(ともに並盛1500円、大盛り1700円)。暑い日だったので、冷やしぶっかけを注文した。
大切なのは練り
うどんの見た目に、まず驚く。名称が「鬼うどん」と勇ましいので、極太で褐色の麺を想像していたら、まさかの、やや細い、そして真っ白な麺が出てきた。
添えられたきんぴらの切り方や盛り付けが上品だ。日本舞踊をたしなむ貞子さんの影響だろうか。種類の違う薬味同士が混ざらないように、鰹節に海鮮も使ったつゆの鉢は2つ。
麺はコシとともに、独特の香りがある。秩父の銘酒「秩父錦」を、ほんの少し入れて練るという。
「うどん作りで一番大切なのは練り。手で何回も練る。足踏みだけでは『手抜き』で、ただ硬いだけのうどんになってしまう」
つゆは、ほんのり甘い九州産の醤油を使い、上品な味わい。きんぴらは、秩父地方の郷土食として、おなじみだ。
鬼を入れると客増
約40年前の開店当初は別の名前で営業していた。あるとき、なじみのお客さんから、現在の店名を提案される。
「えっ、鬼かと驚いたが、『鬼は一番の神様だ』と強く薦められて改名したら、お客さんが以前より多く来るようになった」
現在は腕にケガをしているため、営業は土日の午前11時から午後3時までだが、「9月までには治して、平日も再開する」と気合が入る。
実は、小宮さん。昭和39年の東京五輪時には、体操の競技種目である鉄棒関係者から「合宿に来るか」と声をかけられたこともあるほどの高い運動能力の持ち主である。握力は60キロ。後にはボディービルも経験した。
事前連絡すれば借り切りもできる。「お客さんたちと店内でオフ会を開いて話をするのが楽しみです」と笑顔をみせる。
定峰峠は、車が登場するたアニメ「イニシャルD」のシーンで人気。大霧山などの比企三山トレッキングも兼ねて、ぜひ立ち寄りたい。(昌林龍一)
手打ち定峰峠の鬼うどん
住所:東秩父村白石333
電話:090・2550・8230
観光メモ
東秩父村を流れる槻川沿いの「ヤマメの里親水公園」は、ヤマメ、カジカ、おたまじゃくしなどの生き物が生息し川遊びを楽しめる。公園に隣接する「ヤマメの里バーベキューガーデン」はBBQができる。1日限定13テーブル(1テーブル最大6人)。事前予約をすれば食材セットを用意する。8月はガーデン内で「ヤマメのつかみ取り」イベントを開催。
【問い合わせ】であそぶ東秩父 0493・53・4969