――七月の末に公正取引委員会の再販問題検討小委員会から新聞、書籍、音楽用CDなど著作物について、再販制度の見直しを求める中間報告が出ました。どのように受け止めましたか。
渡辺 あの人たち(検討小委メンバー)は流通、経済の専門家かもしらんけれど、新聞・出版を含めたジャーナリズムというものを歴史的に、文化的な見地から認識できない人たちで、そのために非常に見当違いな報告を書いた。
そもそも公取委が再販問題を取り上げたのは、日米構造協議で規制緩和をアメリカから要求されたからで、つまり貿易問題からきている。日本語による新聞や出版物は貿易商品ではないにもかかわらず、おそらく一番目立つから新聞・出版をターゲットにしたんだろう。再販制度を解除して(新聞社や出版社を)次々と倒産させるぐらいのショックを与えれば、政治的なインパクトは大きいですからな。アメリカからの圧力として公取委の行革逆行的機構拡大(公取委の機能強化)がいま論じられているが、新聞、出版をいじめるのが機構拡大に役立つという潜在意識が働いていたんではないかという疑惑すら持つくらいです。
――六月の橋本龍太郎通産相とカンター米通商代表の会談では、公取委の強化、市場の競争原理の強化などが合意されましたが、そのなかに再販という言葉はなかった。
渡辺 橋本さんから僕は直接聞いたけれども、橋本さん自身は再販廃止に反対です。ただ、カンターさんとのこわ談判で公取委の機能強化は約束してきた。しかし、それはアメリカ側の要求ですよ。規制緩和問題は、産業と行政との間で非常に難しい問題が山ほどある。ですから、一番簡単なのが新聞・出版に対する再販問題。あと化粧品、医薬品もありますけどね。これをみんな(再販から)解除しちゃえば、なんか大変な規制緩和をやった業績になると(公取委は)考えたんじゃないですか。
――自動車交渉の道づれにされたと。
渡辺 まあ、そういうことですよ。しかし、自動車やコメの輸出入の問題と全く次元が違う問題なんだ、これは。新聞の公共性についても、日本だけでなく世界的にどう認識されているかについても、あの中間報告では何ら触れていない。意図的に触れてないんだろう。ちょっと研究すれば分かることですがね。
――ジャーナリズムの公共性という視点が欠落していることが、中間報告で一番気になる。
渡辺 ええ、その点ですよ。公共性ということでいえば、明治四十三年から、営業税(後に事業税)が新聞社に対しては非課税になった。終戦直後、占領下で三年間だけ課税された時期があったが、これは新聞法が廃止されたからです。その後、非課税措置が復活して、昭和六十年、事業税が半額課税になり、去年から五年間の経過を経て全額課税にすることになった。これも活字文化軽視のあらわれです。(文化部長 小林静雄)
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わたなべ・つねお 日本新聞協会再販対策特別委員長、読売新聞社長・主筆。東大文学部卒。昭和二十五年、読売新聞入社。ワシントン支局長、政治部長、論説委員長、副社長・主筆などを経て平成三年五月から社長。著書に「ホワイトハウスの内幕」など。六十九歳。