厚生労働省は24日、年金制度改革の報告書をまとめた。厚生年金の積立金を活用した基礎(国民)年金の給付水準の底上げを巡る議論について、昭和女子大・八代尚宏特命教授(経済学)に聞いた。
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今回の年金改革の議論で注目されていた、厚生年金の積立金を活用してマクロ経済スライドの期間を調整し、基礎年金の給付水準を底上げするという手法の実態は、被用者(サラリーマン)の負担増による基礎年金の救済策に過ぎない。
厚生労働省は「ほぼ全ての年金受給者が恩恵を受ける」と説明しているが、それは基礎年金の半分を国庫で負担する仕組みの拡大を利用したトリックだ。
結局、その分増えた国庫負担の財源は増税か国債に頼ることになり、負担はまわりまわって国民に跳ね返ってくる。小手先の対応と言わざるを得ない。こうした対応を検討せざるを得ないのは、本来取り組むべき抜本的な年金改革から政府が逃げ回っているからだ。
なぜマクロ経済スライドという毎年の年金減額が必要なのか。それは欧米諸国が実現した年金支給開始年齢の67歳以上への引き上げを、日本では政治的な反発を恐れて封印したからだ。65歳での支給開始のままで高齢者に毎年、年金の減額を強いるのではなく、世界トップの長寿国という恩恵を生かし、人々がより長く働けるような労働市場の改革に結び付けるべきだ。(聞き手 大島悠亮)