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ブルジョアが支えた菓子づくり 芸術と美食を優雅に楽しむ 大森由紀子のスイーツの世界

産経ニュース 2024年10月9日 12時10分

以前、ショパンコンクールの映像を見て、出場者たちが当時のショパンの弾き方をよく研究し、その魂が乗り移ったかのごとく演奏していることにいたく感動しました。そこには、19世紀の作曲家が手掛けた楽曲が現代まで受け継がれ、いまなお精力的に研究されている伝統がありました。

現在フランス伝統菓子と呼ばれるものの多くは、同じく19世紀に考案されました。サントノレ、サヴァラン、ババ、シャルロット、クロカンブッシュ、エクレアなど。フランス革命で宮廷の職を失ったパティシエが町に出て技術を伝え、引き継いだ職人がさらに磨きをかけたお菓子の数々です。その隆盛には、職人を支援するブルジョア(資産家)の存在が大きかったのです。

革命が収まると、途絶えていたブルジョアの社交場「サロン」が復活。彼らは着飾って集い、お茶を飲み、おしゃべりに花を咲かせます。そこでは、著名なピアニストを呼び寄せて演奏させ、お茶とともに楽しむお菓子は名だたるパティシエに作らせていました。作曲家のリストは、当代屈指の名パティシエだったアントナン・カレームのお菓子がなければ、決して演奏しなかったそうです。

芸術家や職人の自由な活動を支えたのは、芸術と美食を優雅に楽しむブルジョアだったのです。

大森由紀子

おおもり・ゆきこ フランス菓子・料理研究家。「スイーツ甲子園」(主催・産経新聞社、特別協賛・貝印)アドバイザー。

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