かつて修道院では肉食が禁じられていたため、滋養のあるアーモンドを使ったお菓子が多く作られていました。その中にはマカロンもあります。しかし、要人に毒を盛ることが横行していた中世ヨーロッパ。アーモンドの香りがヒ素のそれに似ているとして次第に敬遠されるようになり、一度姿を消したのです。
もっとも17世紀には、仏北東部ロレーヌ地方の、とある修道院で細々とアーモンドを使ったお菓子が作られていました。ここの修道女たちの呼び名と同じ「ヴィジタンディーヌ」と名付けられた、花のような愛らしい形の焼き菓子です。
このヴィジタンディーヌを参考に、19世紀末にパリでアーモンド菓子を復活させた人物がいます。証券取引所近くに店を構えていた、ラヌという菓子職人です。彼は、証券取引所に通う金持ちが空き時間に素早く手軽に食べられるようにと、ヴィジタンディーヌに似たお菓子を考案。「金持ち」「金融家」といった意味を持つフィナンシェと名付け、札束や金塊をイメージした形にして売り出しました。
こうして、地方の修道院をルーツとするフィナンシェは、パリからフランス中に広がり、現代まで世界中で愛されているのです。
大森 由紀子
おおもり・ゆきこ フランス菓子・料理研究家。「スイーツ甲子園」(主催・産経新聞社、特別協賛・貝印)アドバイザー。