観光客らのごみのポイ捨てを防ごうと奈良県は、奈良公園(奈良市)にごみ箱を設置して効果を検証する実験を実施している。同公園では国天然記念物「奈良のシカ」があふれたごみをあさらないよう、昭和60年代にすべてのごみ箱を撤去。ただ、近年はポイ捨てされたごみをシカが食べることが問題化しており、ごみ箱設置で状況が改善できるか確認する。
奈良公園では現在、県やボランティアらが清掃しているが、訪日外国人客(インバウンド)を含む観光客の増加に伴い、ごみは増える傾向にあるという。一方で、シカの保護活動を行う一般財団法人「奈良の鹿愛護会」が6年前に原因不明で死んだシカ14体を調べたところ、9体の胃からプラスチックのごみを確認した。
こうした事態を受け、県は1月中旬から、奈良公園バスターミナルの屋内外2カ所にごみ箱を試験的に設置している。ごみ箱は2種類あり、ごみがたまるとあふれないよう自動的に圧縮できるものもある。
2月中旬ごろまで、ごみの量や種類、捨てられた時間帯などを詳しく調べ、奈良公園でのポイ捨ての実態を把握する。県奈良公園室によると、これまで捨てられたごみはペットボトルや紙コップなどが目立つという。
県観光局の竹田博康局長は「新型コロナウイルス禍後、観光客が増加してごみも増えている。実験でどういうごみが捨てられているかを見たい」とし、結果を踏まえてごみ箱を設置するかどうかを考えるという。
また、シカとの共生を目指すボランティア団体「鹿サポーターズクラブ」事務局の高見直子さんは「シカが落ちているごみを食べてしまうことを人が意識するきっかけになってほしい」と話している。
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奈良のシカ 春日大社の神が白いシカに乗ってやって来たという伝説から古来、「神鹿」としてあつく保護されてきた。昭和32年には国の天然記念物に指定。奈良公園の象徴的存在となっており、現在は約1300頭がシバや木の実などを食べて生息している。