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「動かない怪鳥」国内初繁殖への挑戦 神戸の動植物園、行動調査やホルモン研究に試行錯誤

産経ニュース 2024年10月3日 10時0分

ユニークな姿で剝製のように動かない「怪鳥」として人気のハシビロコウ。アフリカ中央部の湿地などに生息するが野生下では減少し、国際自然保護連合(IUCN)のレッドリストでは絶滅危惧種に分類される。そんな希少種の国内初の繁殖に挑み続けているのが、雄雌2羽のハシビロコウを飼育する神戸市の動植物園「神戸どうぶつ王国」だ。繁殖に成功したケースは世界でも2例しかなく、大学などとも連携した同園の取り組みに注目が集まっている。

湿地帯を再現した同園の展示場で、体長140センチほどのハシビロコウが彫刻と見まがうほどに動きを止めていた。鋭い眼光に巨大なくちばしは、鳥とは思えないほどの貫禄だ。まれに翼を広げて飛び立つと、来園者からは歓声が上がった。

「待ち伏せの狩り」を得意とし、動きを止めることが多い習性から「動かない鳥」の異名がついたハシビロコウ。ペリカンの仲間で、神戸どうぶつ王国では平成26年の開園以来、園の「顔役」として人気を集めている。その姿を一目見るため、他府県からの来園者も後を絶たない。

ただ、基本的に単独行動で雄雌が一緒にいると威嚇しあうなどするため、ペアになることすら難しい。海外でも繁殖の成功例はベルギーと米国での2例のみで、繁殖期といった詳しい実態も不明のままという。

アフリカの雨季と乾季を再現

それでも、雄の「ボンゴ」と雌の「マリンバ」を飼育する同園では絶滅を食い止めるため、開園から10年間、繁殖に向けてさまざまな取り組みを続けてきた。姉妹園の那須どうぶつ王国(栃木県那須町)で飼育する個体とのペア交換で繁殖を試行。また、大阪大などと協力し、1日の行動記録を取って分析する「行動調査」や、糞(ふん)に含まれるホルモンを調べる「糞中ホルモン研究」などの調査も続けている。

神戸どうぶつ王国の飼育スタッフ、長嶋敏博さん(35)は、行動調査について「四季のある日本では、(生息地と同様に)暖かくなる春から夏にかけて活動的になることが分かった」と説明。糞中ホルモン研究では「雌の卵巣が活発になる時期があり、繁殖可能な体調であることは確認できた。まだ正確な繁殖期を割り出すまでには至っていない」と話す。

また、ハシビロコウをできるだけ野生に近い状態で飼育するため、同園では環境づくりにも力を入れる。3度の施設変更を経た試行錯誤の末、令和3年に完成した展示場が「ビッグビル」だ。羽を広げれば2メートルもある怪鳥が過ごしやすいよう、広さはテニスコート6面分ほど。パピルスや熱帯性スイセンを植えるなど、生息するアフリカの湿地帯とほとんど変わらない環境を再現した。

巣作りの場所になる水辺などの用意はもちろん、アフリカの湿地帯特有の雨季と乾季を再現。水辺の水位は雨季には上げ、乾季には「水位を下げるとともに(生息地と同様に)餌となる魚も増やしている」(長嶋さん)という。

現在、国内では日本動物園水族館協会(JAZA)に加盟する4つの動物園で計10羽のハシビロコウが飼育されている。国内の動物園関係者からは「神戸どうぶつ王国の設備に対する取り組みはは国内最高峰のものだ」と評価する声が上がる。

シンポで10年間の研究成果発表へ

同園では10月27日、開園以来10年間のハシビロコウの繁殖研究を全国の動物園や研究機関などに発表するシンポジウムを神戸市で開催する予定だ。長嶋さんは「具体的な行動とホルモン値がリンクするような明確な成果はまだ得られていないが、これまでの研究成果を他の動物園や研究者の方に役立ててもらいたい」と意気込む。

同園が今後、ハシビロコウの繁殖に成功すれば世界で3例目、アジア圏では初のケースになる。海外を含めても30羽ほどと飼育数が少なく、雄と雌のペアリングのパターンが限られるといった課題も挙がるが、長嶋さんは「試行錯誤しながらハシビロコウの生態を突き止め、繁殖の成功につなげたい」と力を込めた。(鈴木源也)

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