日本とイタリアのデッドストック生地を組み合わせ、1着2役を楽しめるリバーシブルスカートが好評だ。制作者の大河内愛加さん(34)はイタリア在住の高校時代、母国で起きた東日本大震災(平成23年)をきっかけに、日本の素晴らしさを伝える仕事を志し、伝統織物を現代アパレルで展開している。服が廃棄される2大理由、流行遅れとサイズ変化を避け「トレンドを追わず、一生着られる高品質な服」にこだわる。巻きスカート式で、ウエストは50センチ台から80センチまでカバー。中年太りも怖くない!? 一生モノだ。
ミラノで感じた「日本はすごい国」
東京・渋谷駅近くのビルの一室が、女性たちでにぎわっている。シックな紬(つむぎ)生地を裏返すと、カラフルなイタリアの花柄…鮮やかな変身。「仕事中は着物生地、夜のお食事にはイタリア生地という着方もできます」と大河内さん。販路は自社EC(電子商取引)のみだが数カ月おきに1日限定のリアル店舗を開き、30代を中心としたファンが集まってくる(次回東京開催は3月16日)。
ブランド名「renacnatta」はレナクナッタと読む。「使わレナクナッタ伝統の素材と技術に光を当てたい」。眠っていた日×伊の反物と生地とを組み合わせたスカートは絹素材が4万4千円、綿が2万9700円。値は張るがこの日だけで40人が来場し、35着が売れた。
「1着で2着分だと、思い切って買ってみたら着心地もよかった」という歯科衛生士の女性(55)は、夏の実店舗で購入したスカートをはいて来場。「天然素材で夏涼しく冬温かい。インスタグラムで商品を知り、コンセプトと独自性に共感しました」
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ミラノの大学でデザインを学んだ大河内さんは、2016年にスカートの販売を始めた。自社サイトを立ち上げ、令和元年に帰国して京都市を拠点に法人化。翌年185枚、さらに次の年は260枚と販売数を伸ばす。一昨年に自身が妊娠、出産した際もこのスカートをはき続け、体形変化への対応も実証した。
素材はデッドストックだけでなく「発注することで伝統産業を応援したい」と、着物側を久留米絣(かすり)にしたスカートも作っている。
発注先の「下川織物」(福岡県八女市)の下川強臓(きょうぞう)さん(53)は、「伝統技術は、使ってくれる人がいなくなれば途絶える。生産と消費の経済循環を持続するためには、新しい製品をデザインする人や販路との連携が必要」と指摘。そのうえで、大河内さんの活動を「自分のやってきたことと重なる」と語った。
12年前からSNSを活用。欧州の展示会に積極出展し、ラグジュアリーブランドとのコラボ商品も実現させている。「欧州では合理化で多くの職人仕事が途絶え、日本各地の伝統工芸へのリスペクトがある。その強みを生かしたい」
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大河内さんの活動の原点は東日本大震災が発生した14年前。通っていた5年制高校で日本人の生徒は自分だけだったがみんなが日本を心配してくれ、義援金を領事館に届けに行った。
「15歳から家族でミラノに暮らし、日本に興味もなく、イタリア人として生きていくくらいの意識でしたが、改めて日本はすごい国なんだと感じた。ニュース映像から流れてくる被災者の協調性、列に並び物資を待つ規律正しい姿などに、母国愛が目覚めました」
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伝えたい伝統はたくさん。西陣織で作った「一生着られるウエディングドレス」(21万4500円)は、実はブラウスとスカートに分かれて式後もおしゃれ着になり、限定5着が発売日に完売した。昨年8月には京友禅と丹後ちりめんの「一生着られる振袖(ふりそで)」の受注を開始。将来は袖を切って訪問着にできる。横浜捺染(なっせん)、播州織など徐々にコラボを広げている。
「昔よりも作らレナクナッタ伝統産業と組んで、継承と発展に貢献したい」
日本人が積み上げてきた価値ある遺産を歴史から引っ張り出し、普遍的な今の日常へとつないでゆく。(重松明子)