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「都市養蜂」ホテルなど企業が参入 街のミツバチが伝える地球環境保護 近ごろ都に流行るもの

産経ニュース 2024年10月5日 13時0分

花から花へ飛び回り、人間に欠かせない農産物の授粉を媒介してくれるミツバチが地球環境保護の〝使者〟となり、大都会での都市養蜂が広がっている。そのひとつ。「庭のホテル 東京」(東京都千代田区)は今年から、屋上菜園の授粉をミツバチに任せたところ、春夏で73キロの蜜を収穫した。目もくらむ地上53メートル=15階建てビル屋上での養蜂への挑戦。成果物ハチミツの提供が始まり、おいしさと自然との共生を伝えている。

殺虫剤メーカー「人と虫との共生も重要」

周囲に高層ビルが立ち並ぶホテル屋上。バジルの花にしがみつくミツバチの姿がけなげだ。「行動半径2~3キロといわれますが、近隣は皇居や小石川後楽園など緑が豊富。色々な場所に出かけて帰ってきてくれる」と海老沼悟総支配人(49)。

同ホテル「eco庭」プロジェクトの第2弾だ。昨年、外国人宿泊客が部屋に放置していく不要スーツケースの処理に困ったホテルは、海老沼さんのアイデアでケースをプランターに活用した屋上菜園を開設。卵の殻や野菜くずなど厨房(ちゅうぼう)から出る廃棄物で作った有機肥料で野菜栽培を始めた。運営責任者として忙しい海老沼さんに、朝一番の受粉作業が加わったが、これがなかなかの重労働。「野菜の花に顔を入れているミツバチを見て、やってもらおう!」とひらめいた。

相談したのは生物多様性保全と促進を目指し、都市養蜂の代行やコンサルティングを行うBee(ビー)slow(スロー)(東京都江東区)。船山遥平社長(40)は「巣箱もセイヨウミツバチの種も従来の養蜂と全く同じですが、私たちはハチミツを採ることを第一の目的にはしていません」と違いを強調。企業の養蜂参入は世界的トレンドという。「北米や欧州ではキリスト教文化の価値観からミツバチが尊ばれ、近年はSDGs(持続可能な開発目標)の象徴になった。生態には緑地が不可欠。自動車やITなどあらゆる業種の大企業がCSR(企業の社会的責任)として取り組んでいる」

今年2月、ホテル屋上に1万匹の巣箱を設置すると5月には10万匹に繁殖し、初の採蜜。6、8月にも蜜を採り、10月の採蜜で1年目のシーズンが終わる。

試食すると、春製はすっきりとまろやかで、夏製はコクがあって余韻が長い。公園などの人工植栽で花の種類が豊富な都会では、バラエティー豊かなハチミツが採れるという。

「ミツバチのおかげで私の仕事もラクになり、ハチミツも野菜もたくさん収穫できた。お客さまに還元し、味わっていただきたい」と海老沼さん。10月4日から朝食ビュッフェやドリンクでの提供と、瓶詰(120グラム4980円)を販売。オリジナルビールの副原料にも活用する。

普段おとなしいミツバチだが針を持ち、集団行動の特性で大群が集まる場合もあり、注意は必要だ。

ビースローでは、都心部を中心に養蜂サービスを提供している。殺虫剤メーカーのフマキラーは同社支援のもと4月から、千代田区の6階建て本社ビル屋上で養蜂を開始。これまでに45キロのハチミツが採れた。イベント来場者への配布や見学会、蜜蝋アート体験などを実施している。「殺虫剤の研究開発をしているが、人と虫との共生も重要。養蜂を通じて自然環境を理解し、花や虫たちといい関係を描きたい」と広報担当。

都市養蜂の草分けは、18年前に発足したNPO法人銀座ミツバチプロジェクト(東京都中央区)だ。有志たちがビル屋上でミツバチを飼い始め、現在は年間2トン超のハチミツを収穫。活動は全国約100カ所に拡大し昨年、札幌、名古屋、京都、大阪などの都市養蜂が連携する一般社団法人ミツバチプロジェクト・ジャパンが組織された。

当初は繁華街での養蜂に否定的な声も多かったが、活動が社会の認識を変えた。

「ミツバチが絶滅すれば、その4年後に人類は滅びる」。真偽の程は不明だが、物理学者アインシュタインの警告が真実味を帯びる。働き者のミツバチからヒトが学べることは多い。(重松明子)

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