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重ね着で「命」表現、自然に還る万博公式ユニホーム こだわりのデザイナー服部真理子さん  一聞百見

産経ニュース 2024年9月27日 14時0分

2025年大阪・関西万博では会場スタッフの装いも注目のひとつ。案内所などで働くスタッフの公式ユニホームは、着心地の良さだけでなく、年齢や性別を問わず「誰でも着こなすことができる」というのが特徴で、約500の公募作品から「豊通ユニファッション」(名古屋市南区)の服部真理子さん(53)のデザインが選ばれた。「まさか、自分が選ばれるとは」と、信じられない思いだったという。

人工島・夢洲(ゆめしま)(大阪市此花区)の万博会場では来年、服部さんデザインのユニホームに身を包んだ約600人のスタッフが、約2820万人の来場者を出迎えることになる。

実感はまだない。「幕が開いて、スタッフの方々を間近で見て、初めて実感できるのかもしれないです」と柔和な笑顔をのぞかせる。

服部さんが勤める豊通ユニファッションは民間企業向けの制服メーカー。オフィススタッフが着用するユニホームや工場の作業着など幅広く取り扱っている。

約30年間で手掛けたユニホームは、延べ約500社以上。航空会社やコンビニ、アミューズメント施設、高級車販売店-など、制服デザインというかたちで、多方面の働く人を支えてきた。

アパレルの世界では流行を追い求めたデザインを施すのが一般的だ。袖や襟、裾など服の細部に至るまでトレンドの最先端を意識する。

だが、制服は違う。企業の理念や実現したいイメージに基づいて制作されるからだ。機能性も大事だが、働く人自身が職場になじむようにできる「ツールのひとつ」という位置づけもある。

服部さんは「アパレルは不特定多数が着ると考えますが、制服はどんな人が着るのかが分かる、ということも作り手としては面白い」ともいう。万博ユニホームのデザインには、働く人のことを考え抜いてきた服部さんのこだわりが詰まっている。

祖母や親類が洋服店を営んでおり、「おしゃれ」が身近な幼少期を送っていたという服部さん。普段着からハレの日まで、身の回りにはいつも、かわいい洋服があったという。絵を描くことも大好きで、洋服と絵を掛け合わせ、少女の夢はいつしかファッションデザイナーになっていた。

東京の短大で服飾デザインを学び、夢をかなえてアパレル企業に就職。当初は流行に沿った服を作っていたが、トレンドに左右されない「制服」に魅力を感じて今の会社への転職を決めた。

上司の勧めで応募を決めた万博ユニホームのデザインは、忙しい通常業務の合間を縫って取り組んだというが、「楽しんで作ることができた」と振り返る。

制服デザインには制約も多く、予算に限界があったり、使用できる色が限られていたりすることもある。その点、万博のユニホームは発想の羽を自由に伸ばすことができたという。「大きな声では言えませんが、通常の仕事よりはかどったくらいです」とちゃめっ気を見せた。

服の未来を考える

2025年大阪・関西万博で約2820万人の来場者を迎えるスタッフが着用する公式ユニホームは、全身を白で統一したセットアップだ。シンプルだが、襟のところで、公式キャラクターのミャクミャクが、ひょっこり顔をのぞかせて愛らしい。公式ユニホームをデザインした豊通ユニファッションの服部真理子さんは企業制服を手掛けてきた経験を生かしてコンセプトを大事にしながら機能面もこだわったデザインに仕上げた。

最もこだわったのは万博のテーマ「いのち輝く未来社会のデザイン」をデザインに反映させたことだ。

性差や年齢による垣根をなくし、着る人は男女問わずスカートとパンツを選択できる。また、スタッフ自身の好みや気分でインナーの色を赤、青、緑の3色から選べるようにした。

これは、万博が目指す「多様性」や「持続可能な未来」「新たな価値観の創造」-といった理念を表現しているという。

シルエットは大胆なアシンメトリー(非対称)を採用した。ジレ(ベスト)、トップス、ボトムス、ウエストポーチをレイヤード(重ね着)することで、木々が重なり合う様子や「いのち」を表現しているそうだ。

万博のシニアアドバイザーのデザイナー、コシノジュンコ氏にもアドバイスを受けた。「誰もがかっこよく、スタイリッシュにユニホームを着こなせるように」と、ジレの丈はひざ下までぐっと長くし、優雅さやスマートさを演出している。

服部さんは「テーマを具現化したユニホーム。スタッフのみなさんには、自分の意思を尊重して着こなしてほしい」と呼びかける。

デザインを通じて理念を表現する作業は、企業の制服制作のノウハウが生かされており、服部さんにとっては得意分野だ。

こだわりは機能面にも及ぶ。2005年愛知万博を訪れた際に、暑さが印象に残ったという服部さん。今回の万博も、4月から半年間にわたって開催されるため、夏の暑さ対策が重要になる。

夏場にジャケットを羽織るのはスタッフにとっては酷だ。ただ、各国の要人らを出迎える役割もあることから、きちんと感も演出したい。そこで考えたのが、ジレの採用。ジレの肩から背面にかけては大胆にメッシュ素材になっており、通気性を良くしている。重さも軽減し、さらっと羽織ることができる。

インナーはTシャツにして、汗をかいてもすぐに着替えられたり洗濯が容易なものにした。スカートも涼しさに一役買っているという。サンプルを試した男性陣からは、涼しさに驚きの声があがった。

服部さんは「少しでもスタッフが快適に仕事ができるよう、暑苦しいものはすべて排除し、涼しげな制服にした」と話す。

ユニホームのほとんどは、再生・再利用ができる「自然に還(かえ)る」素材を使用している。ファッション界では、大量生産・大量廃棄を繰り返してきた過去があり、服部さんは「遅れている感覚を取り戻そうとしている」という。

一着の服を手に取るとき、デザイン性だけでなくコンセプトや環境への配慮といった点にも少しの意識を向けてほしい-というのが服部さんの思いだ。

「万博やユニホームをきっかけに、来場者が服の未来についても興味を持ってくれたら」と夢は広がっている。(石橋明日佳)

はっとり・まりこ 昭和45年、長野県飯田市出身。女子美術大短期大学部を卒業後、アパレルメーカーに就職。平成2年より豊通ユニファッション(旧レナウンユニフォーム)で企業の制服のデザインを手掛ける。2025年大阪・関西万博の公式ユニホームのデザインを担当し、約500作品から選ばれた。

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