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VHS「2025年問題」思い出消滅の危機 迫る耐用年数、データ変換の依頼殺到

産経ニュース 2025年1月7日 7時0分

令和7年は、昭和から平成にかけて広く使われたVHSテープの映像が見られなくなる「2025年問題」が指摘される年だ。VHSの再生用ビデオデッキの生産終了から8年。最後に販売されたテープもやがて耐用年数を迎え、視聴環境が失われる恐れがある。家族の思い出や仕事の記録といった唯一無二の映像をデジタルデータなどへ移行する動きは活況のようだ。

昨年12月下旬のとある平日。VHSテープのダビングサービスなどを手掛けている会社「ダビングコピー革命」(東京都台東区)を訪ねると、同社のスタッフらが全国から送られてきたVHSテープの映像をDVDなどへ移行する作業に追われていた。

依頼品の多くは、個人客が所有するホームビデオ。家族旅行や子供の入学式、スポーツの試合などを記録したものが多いという。ただ、運営責任者の吉岡崇さんは「研究資料やセミナーの様子を残したい、という法人からの依頼も全体の2割ほどある」と話す。

同月の依頼件数は前年の同じ月の2倍ほどに増加しているという。

2019年に注意喚起

「形式が時代遅れになった結果、2025年ごろに(情報の)伝達が停止する可能性がある」

国連教育科学文化機関(ユネスコ)がVHSなど磁気テープに保存された情報が失われる危険性への注意を喚起する「マグネティック・テープ・アラート」を発表したのは令和元(2019)年のこと。一般的にVHSテープの寿命は約20年、長くても30年ほどといわれている。ユネスコのアラートから5年、VHSテープの再生機器や部品は急速に姿を消しており、令和7年ごろに映像が見られなくなる危険があるという。

生産台数は9億台超

VHSテープとビデオデッキは昭和51年、日本ビクター(現JVCケンウッド)が開発・発売した。テレビ番組のタイムシフト視聴や家庭での映画ソフト鑑賞を可能にし、全世界で普及した。ビデオデッキの生産台数は累計9億台を超えた。

しかし、平成後期に入ると、記録媒体はより高画質で記録できるDVDに取って代わられるように。同社は平成20年にビデオデッキの生産を終えた。令和6年に破産手続き開始が決定した船井電機が国内企業で唯一生産を続けていたが、それも平成28年に終了した。

JVCケンウッドの担当者は「(VHSテープとビデオデッキは)これまで膨大な量の映像資産の蓄積に貢献できた。映像産業や教育、芸術などさまざまな分野に影響を与えられたのではないか」と功績を自負する。

進む映像守る試み

VHSテープ内のデータを移行し、保存する試みは各所で進む。

映像技術に詳しい日本大芸術学部放送学科の安部裕教授は、学科内でもVHSテープの映像資料をデジタル化する作業を行っている。デジタル化したデータは大学のサーバーに保存する。

安部教授は「データが壊れない限りは映像を守ることができるため、より安全だ」と語る。

移行作業はVHSのアナログ信号をデジタル信号に変換するための専門機材で行う。これには収録された映像の長さと同じだけの時間を要するといい、かなりの長期戦を強いられる。

VHSテープの寿命はいつ尽きるのか。データ移行は迫り来るタイムリミットをにらみながらの作業となっている。(堀川玲)

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