役場を障害者アートの美術館に-。役場の庁舎を丸ごと美術館に見立てて障害者の芸術作品を展示する全国でも珍しい取り組みが愛媛県松前(まさき)町で始まった。「パラアートギャラリーまさき」と名付け、町内にある障害者施設で活動する14人の作品85点を庁舎のエントランスや廊下などに展示、気に入った作品は購入やレンタルもできる。町の担当者は「多くの人が訪れる役場で作品を発信することで、パラアートへの理解促進につながってほしい」と話している。
「恐竜」が来庁者を出迎え
役場のエントランスをくぐると、広場に大きく口を開けた恐竜の油彩画が来庁者を出迎えてくれる。他に動物やフルーツを描いた水彩画や、花々をデザインしたデジタルアート、着物生地を使ったバッグやティッシュケースといった小物類などが5階までの各フロアに展示され、庁舎全体がさながら美術館のようだ。
作品紹介のプレートには、タイトルと作者名に加え、2次元コードが記載されている。スマートフォンなどで2次元コードを読み込むと、作者が通う障害者施設のページが表示され、施設側に作品の購入やレンタルを申し込むことができる。
役場を訪れる町民らは興味深そうに作品を見入ったり、スマホで2次元コードを読み取ったりなどして、庁舎を彩るアートの世界に浸っている。
「見てもらう機会少ない」
町によると、「パラアートギャラリー」の取り組みは、町内の就労継続支援B型事業所「ヒカリのアトリエ」から「作品を見てもらう機会が少ない」という相談を受けたことがきっかけという。
同事業所では障害のある利用者が芸術作品を作り、その複製品を販売やレンタルする。収益は工賃として利用者に還元される仕組みだ。これまで東京や大阪の展示会などに出展してきたが、県内では展示できるイベントなどが少なく、情報発信が課題となっていた。
「利用者の中には作品作りこそが生きがいという人もいる。そうした人の作品は見る人の心に響く」と同事業所管理者の青山俊子さん。「作品を多くの人に見てもらい、障害者の収入に反映することで、社会参加につながるはず」と強調する。
こうした事情を踏まえ、役場内で議論した結果、多くの町民が訪れ、管理が行き届く室内で新たな施設費用がいらない町役場を活用することに決定。町内の他の施設にも作品出展を依頼したところ、「ヒカリのアトリエ」を含む3事業所から作品が寄せられ、10月下旬から展示を始めた。
創作のモチベーションにも
青山さんは「利用者にとって作品を見てもらえることは何よりの喜び。役場という身近な場所で展示してもらい、創作のモチベーションにもつながっている」と喜ぶ。
作品2点が庁舎内に展示されている梅岡奈都美さん(29)は「絵を書くのは大好き。みんなに見てもらえるのはうれしい」と笑顔で話す。
町は今後、半年ごとに作品を入れ替えて展示を続けていく方針だ。担当者は「町民からも好評で、役場の雰囲気も明るくなった。パラアートギャラリーの取り組みが障害者の生きがいと収入に、ひいては共生社会の実現につながっていけば」と期待を寄せている。(前川康二)