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広島・原爆の日、今年も妨害された「静かな祈り」 規制無視・居座り反戦反核団体への対策

産経ニュース 2024年9月12日 8時0分

厳粛な慰霊は今年も妨げられた-。8月6日の広島・原爆の日に平和記念公園で「反戦反核」を訴える団体によって繰り広げられた居座り集会。昨年の集会で負傷者が出たことを受け、広島市は今年、事実上集会を禁じた。しかし、団体は前夜から集合して公園内で夜を明かし、最後まで市の退去命令に応じなかった。来年は原爆投下から80年。市は9月の市議会で状況を報告し対応を検証する方針で、静かな祈りを実現するための対策を模索する。

未明から怒号「違反してねえだろ」

「集会弾圧を許さないぞ」。8月6日午前4時半過ぎ、日の出前から公園内の原爆ドーム前は物々しい空気に包まれた。市職員は集まった数百人に「慰霊の場になります」と移動を求めたが、拡声器を使った団体側の怒号にかき消された。

再三の要請に従わないため、市は迷惑行為を禁じる公園条例に基づき退去を命令した。だが、参加者は「違反してねえだろ」と怒鳴り返すのみ。広島県警も集会中止を呼びかけたが状況は変わらなかった。

団体は「8・6ヒロシマ大行動実行委員会(大行動)」。公安関係者によると、メンバーには過激派・中核派も含まれている。例年、原爆ドーム前で数百人規模の集会を開き、反戦反核などを大音量で訴えてきた。「静かな慰霊」を望む遺族らの声に大行動側が耳を傾けることはなかった。

ルール守った団体は不満も

事態がエスカレートしたのは昨年夏。大行動側が市職員を押しのけて強引に集会場所を確保しようとするトラブルが発生し、県警が暴力行為法違反の疑いで中核派活動家の男5人を逮捕したのだ。対抗する団体との衝突も起き、2人がけがをした。

再発防止策として、市は今年、入場規制や手荷物検査を強化し、午前5時~9時までの集会を事実上禁じた。5時に公園内にいる人をいったん外に出し、6時半から再入場させる方針を決めた。

この措置に大行動側は猛反発。5日夜から原爆ドーム前に集まり、原爆投下時刻の午前8時15分ごろまで居座り続けた。その後、公園近くの路上で行われたデモ行進では、「集会禁止を粉砕した」とこぶしを振り上げる参加者もいた。

結局、規制を「無視」する大行動側に押し切られる形で終わったが、そもそも今回の規制は妥当だったのか。ある市幹部は、目的がけが人の防止だったことを踏まえ、「すぐに(集会がなくなる)効果が出るのは難しい。ひとまず、けが人が出なかったのは良かった」と胸をなでおろす。

これに対し、別の市幹部は「やりたい放題したもの勝ちになってしまった」と嘆く。大行動側が居座ったのは、まさに原爆ドームの説明板が設けられた場所。本来であれば式典の参列者らが立ち寄った可能性が高いが、近付くことすらできない状況となってしまった。

規制に従った別の団体からは不満の声も出ているといい、この市幹部は「今年はルールを守ってくれた団体も、来年はどうなるか分からない」と懸念する。

一筋縄ではいかぬ対策

福岡県警本部長などを歴任し、社会安全政策に詳しい京都産業大の田村正博教授は、今年の規制について「想定が甘かったわけではないだろう。表現の自由に対する規制は最小限であるべきだというのが基本的な考え方のため、対策が後手にならざるを得ない部分がある」と指摘する。

例えば、今回の規制は午前5時から始まったが、仮に前夜から規制する方針を示していた場合、「過剰な規制だ」と批判されていた可能性もある。ただ、今年の大行動側の振る舞いをみれば、前夜まで範囲を広げて規制の導入を検討する具体的な「根拠」になったともいえる。

警察が強制的に排除したり逮捕したりする手段もありえたが、参加者の多さからかえって現場の混乱を招く恐れもあり、一筋縄にはいかない。田村氏は「具体的に起きた問題に一つ一つ対処することで、より安全で落ち着いた空間の実現に段階的につながっていくことが望ましい」としている。(倉持亮)

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