日本海の冬の味覚として人気の高いズワイガニ。中でも水揚げ量の少なさや新鮮さから、京都府京丹後市の間人(たいざ)漁港で水揚げされた間人ガニは「幻のカニ」と呼ばれ高値で取引される。間人ガニを巡っては今春、産地偽装事件が発覚。地元水産品加工販売会社の当時の役員らが、他の地域で獲れたカニを間人ガニと偽り、高値で販売していた。ブランドの信頼回復が最重要課題となる中、11月上旬に今シーズンの漁が解禁され、現場では新しいタグの導入による漁獲情報の「見える化」に乗り出した。
高級料亭でも提供
間人ガニは間人漁港を基地港とする5隻によって水揚げされるズワイガニの別称。漁船の規模が小さいため一度の漁獲量が限られる一方、近海で操業し、新鮮であることがウリとされる。味やその希少性から幻のカニとも呼ばれ、京都や東京の高級料亭などで提供されることもある。
11月9日、間人地方卸売市場で、事件後初となる間人ガニの初競りが行われた。競り人の声に誘われるように仲買人が次々とカニを競り落としていき、オス5杯で85万円の最高値が付いた。ご祝儀相場でもあるが、関係者は「無事スタートできてほっとしている」と胸をなでおろした。
「10年ほど前からやっていた」
事件は今年4月に発覚した。悪用されたのが、間人ブランドを証明する「たいざガニ」と書かれた緑色のタグ。このタグは「外国産のカニとの差別化を図りたい」との漁業者の要望を受けて平成11年に導入されたもので、毎年漁期が始まる前に漁業者が漁協から購入していた。ただ事件前は、タグの数と漁獲数を合わせるなどの管理はしていなかったという。
地元の水産品加工販売会社の役員だった男らは、兵庫県産のズワイカニにこのタグをつけて販売。京都府警に不正競争防止法違反容疑で逮捕された男は「10年ほど前からやっていた」と供述した。
タグは関係者から不正入手していたという。飲食店などにズワイガニ2杯を計5万4500円で販売するなど、産地ブランドを看板に荒稼ぎをしていた実態が明らかになった。
問われる産地ブランド
京都府漁業協同組合は5月、有識者らでつくる「ブランド適正化協議会」を立ち上げた。
再発防止策として府漁協が進めたのが、2次元コードによる見える化だ。ズワイガニ漁を行う府内の舞鶴(舞鶴市)、間人、網野(京丹後市)の3漁港10隻に、水揚げされたズワイガニの脚に新たに白色のタグを付けることを義務づけた。タグにある2次元コードを読み取ると、消費者は「いつ、どこで、誰が獲ったか」を知ることができるようになった。
またタグの使用数と漁獲量を一致させるため、競り前に漁協職員がカニの数をチェックし、タグの有無を確認する取り組みも始めた。府漁協組織部の浜中貴志部長は「消費者の不信感を払拭する必要がある。事件後、限られた時間の中でやれることはやってきた。今後も取り組みを進めたい」と強調する。
協議会では間人ブランドをさらに高める方策についても議論があった。具体的には「2次元コードに動画や漁業者からのコメントをつけてはどうか」などとの意見も上がったという。
産地ブランドをどう守り、発信していくべきなのか。鹿児島大水産学部の鳥居享司准教授(水産経済学)は「信用の積み重ねがブランドにつながる。漁業者や流通業者など、消費者に届くまでに関わる全員がブランドを育てるという意識を持つことが大切だ」と話した。(入沢亮輔)