学校に侵入し、生徒らが利用する更衣室に小型カメラを設置し盗撮したとして今年6月、神戸市中央区の無職の男(37)が兵庫県警に逮捕された。男は、女子生徒が着替える更衣室に特殊なハンガー型の内蔵カメラを仕掛けるため、学園祭などで周到に下見。校内への侵入を繰り返し、あろうことか更衣室の合鍵を作ったこともあった。地域に開かれた学校を掲げる高校の教育理念を踏みにじる悪質な犯行だけに、学校側は生徒の安全とのジレンマに苦慮している。
逮捕のきっかけは今年3月、男が初めてトイレの盗撮に挑んだことだ。神戸市中央区の商業施設内の女子トイレ内に小型カメラを仕掛けたが、利用客の女性にカメラの存在に気づかれた。
「トイレの盗撮は初めてだった」
男がこう無念さをにじませるのもそのはず。男はそれまで、巧妙かつ大胆なプロ級の手口で学校での盗撮を実行していたのだ。
兵庫県警が男の自宅を家宅捜索したところ、ハードディスクなどから約2万ファイルの動画が見つかった。その多くは学校内で盗撮したものだったという。
県警は6月12日、建造物侵入と窃盗容疑でこの男を逮捕した。男は「性的欲求を満たすためだった」と容疑を認めたという。
入念な下見と侵入、更衣室の合鍵も
男の手口は、実に手が込んでいる。
盗撮の下見のため、学園祭などの際に学校に入り込み、校内の防犯カメラの有無や位置、その他の防犯設備を確認。夜には学校周辺を徘徊(はいかい)し、侵入が可能な出入り口を探すなど入念な準備を重ねた。
目を付けたのは無施錠の窓だ。ある学校では体育館の窓を開けて中に侵入し、体育準備室に保管されている女子更衣室の鍵を盗み出した。鍵を複製し、それを使って何度も更衣室に出入りしていた。
男が使った盗撮用のカメラも特異だ。衣服を掛けるのに用いるハンガーの形をしていて、黒色で幅約40センチ。ハンガーの顔と呼ばれる中央部分に、数ミリ程度の穴が開いており、そこに小型カメラが内蔵されている。
男は、そのハンガー型のカメラを更衣室に設置し、生徒らが着替える様子を撮影していた。ラックなどにハンガーを掛けるほか、無造作に地面に置いて、下から撮影しているケースもあった。動画を確認し、うまく撮影できていない場合には、ハンガーの位置を微修正するため再び更衣室に立ち入っていた。
学校関係者や被害に遭った生徒らは、男の盗撮行為に全く気づいていなかったという。
男は、令和元年ごろから学校内での盗撮に手を染めていた。県警はこれまでの捜査で、高校4校を含む6件の建造物侵入や、5件の窃盗、20件の性的姿態撮影処罰法違反事件に関与したことを裏付けている。
土日も部活動、地域との関わりがあだに
男は県警の調べに「成人ではなく未成年に興味があった。県外の学校にも侵入していた」などと話しているという。
児童8人の命が奪われた平成13年の付属池田小学校の殺傷事件以降、主に幼稚園や小学校などを中心にセキュリティー対策が進み、防犯カメラの設置や教員の不審者対応訓練なども行われている。ただ、犯罪者の手口が多様化し、徹底した防犯対策を講じなければ犯罪を未然に防ぐことは難しい。
特に高校では、部活動などで土日も多くの生徒が出入りし、教員の指導のもと、戸締まりを生徒が担当する場合もある。防犯対策の徹底には難しさもあるという。
兵庫県教育委員会の担当者は「地域に開かれた学校として地域住民も出入りするため、休日に校門を閉め切っている学校は少ない」と説明。「地域との関わりという点において、防犯対策とのバランスが難しい」と話す。
今回被害に遭った学校では無施錠の窓があったほか、鍵の管理方法が徹底されておらず、誰でも鍵を盗み出せるような状態だった。兵庫県警は今回の事件を受け、県教委などを通じ、各学校に夜間休日の施錠の徹底や鍵の保管方法について注意喚起。各校の実態に合わせて対策が進められているという。
防犯対策などに詳しい関西国際大心理学部の中山誠教授(犯罪心理学)は、多様化する犯罪を防ぐ有効な手段として防犯カメラの設置を挙げ、「学校への侵入を試みる不審者に犯行を思いとどまらせる効果は確実に期待できる。まずは外からの侵入を防ぐ対策をすべきだ」と指摘。
その上で「生徒の安全を守ることが最も大切。『自分のところは大丈夫だろう』と思い込まず、防犯カメラの設置などハード面の対策のほか、生徒一人一人の防犯意識を向上させる教育を行うなどソフト面の対策も重要だ」と話している。(安田麻姫)