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お化け屋敷で酒に酔い演者に顔面キック あごを骨折させた空手有段者とテーマパークの責任

産経ニュース 2024年8月16日 8時0分

「お化け」を蹴って骨折させた責任はテーマパーク側にもある-。お化け屋敷の利用客が、負傷したスタッフに支払う和解金の7割をテーマパークが負担するよう求めた訴訟の控訴審判決が7月、大阪高裁であった。飲酒後に入場し、空手の有段者ながらお化け役のあごを蹴り上げた利用客。自身の責任を部分的に認めつつ、こうした事態に備えた訓練が不十分だったなどとしてテーマパーク側の4つの安全配慮義務違反を訴えたが、裁判所は全面的に退けた。

発端は約10年前、関西のテーマパーク内のお化け屋敷。昼食時に酒を飲んだ後、知人と手をつないで中を進んだ利用客は、仮装したスタッフが出現するやいなや、右足であごを蹴り上げた。

スタッフはあごを骨折する重傷を負い、利用客に損害賠償を求めて提訴。利用客がスタッフ側に解決金1千万円を支払うとの内容で和解した。

しかし、話はここで終わらなかった。多額の解決金を背負った利用客が、テーマパークの運営会社を相手取り、支払いの分担を求める別の訴訟を起こしたのだ。

言い分は何か。利用客側は、お化け屋敷が「恐怖」を売りにしている以上、格闘技の心得がある人も含め「客がとっさに手を出してしまう事態は予見できた」として、未然防止の義務を怠ったと訴えたのだ。

具体的には、①利用客との間に仕切りを設置しなかった②スタッフに攻撃を避ける訓練や指導をしなかった③利用客に人間がお化けを演じていることを周知しなかった④酒を飲んだ人の入場を拒むべきだった-という4点。解決金を負担する割合について「利用客3割、テーマパーク7割が相当」と主張した。

攻撃あり得ず反撃の必要もない

今年1月の1審判決。地裁は、テーマパークがスタッフに対し、客に触れたり前方に立ちふさがったりしないよう指導していた上、利用客にも口頭やビデオでお化け役の人間に触れないよう注意していたと認定。「(今回の事案は)異例の出来事で、テーマパークに事案を予見する義務を課すことはできない」と請求を棄却した。

利用客側は控訴したが、7月の大阪高裁もお化け屋敷の〝性質〟を検討した上で、利用客側の訴えを再び退けた。

確かにお化け役は利用客を驚かせるが、安全に楽しんでもらうのが大原則。映画やドラマのように「お化け」が攻撃してくることはあり得ず、従って客も反撃する必要性がない。2審判決は、恐怖のあまりにとってしまった反射的な行動の範疇(はんちゅう)を超えた今回の行為は「正当化する動機や合理性を見いだしがたい」と指弾した。

利用客側はこの判決も不服として上告した。

「お客さま第一」認識改めを

テーマパークではつい気分が高揚しがちだが、違法行為や迷惑行為が不問に付される「夢の国」でないのは当然の話。過去には刑事事件に発展したケースもある。

北海道のお化け屋敷では平成27年、お化け役のスタッフに暴行したとして2人の利用客が相次いで逮捕された。別のテーマパークでは、ウオータースライダーのボートをわざと転覆させたり、パレードに乱入して一時中断させたりした利用客が、威力業務妨害の疑いで立件されている。

テーマパークでの違法行為や迷惑行為を防ぐにはどうしたらいいのか。悪質クレームやカスタマーハラスメント問題に詳しい関西大の池内裕美教授(社会心理学)は「施設側は、あらかじめ利用客に対して何が迷惑行為に該当し、発生時にはいかに対処するのかを明示しておくと、実際にトラブルが生じた際に対応しやすくなる」と助言する。

また、利用客自体も『お客さま第一』といった認識を改め、利用する施設の注意事項をしっかりと把握し、相手の立場やサービスの範囲を理解した〝賢い消費者〟としての行動をとるべきだ」としている。(弓場珠希)

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