10歳児童が運転する自転車と乗用車の衝突事故で、過失割合は自転車が100%-。修理費用を巡る訴訟で、こんな判決が下された。幼児からお年寄りまで、幅広い年齢層に利用される自転車だが、道路交通法上はれっきとした「車」。今月1日施行の改正法では16歳以上の違反運転に厳罰が科されるようになった。最も身近な交通手段ともいえる自転車の運転マナー向上につながるか。
3つのポイント
事故現場は信号機のある交差点。男性が運転する乗用車の対面信号は青を示していた。向かって左側に塀があり、見通しは悪い。男性はアクセルペダルを踏まず、徐行して進入。すると左側から赤信号を無視した10歳児の自転車が飛び出してきて、車とぶつかった。車はほぼ停止状態だったため、児童にけがはなかった。
乗用車の運転手は児童側に修理費用を求めて提訴。大阪簡裁は「本件事故の原因は児童にある」との判断を示し、児童側の過失を認定した。
判決のポイントは3つ。1つ目は乗用車側が交差点の手前で速度を落とし、徐行していた点。
2つ目はドライブレコーダーの映像から認定した児童側の運転の状況だ。自転車は歩道上を徐行せずに走行し、児童は前方の信号が赤であることを確認しなかった。
3つ目は、車側の事故の予見可能性。この点について裁判所は、現場が見通しの悪い交差点で、赤信号を無視して自転車が飛び出してくることを予見できるとはいえないと指摘した。
児童側は判決を不服として控訴したが、大阪地裁で行われた控訴審でも「児童と男性の過失割合は100対0」と認定された。児童側は上告している。
「まず家庭内で教育を」
11月1日に施行された改正道交法では、16歳以上による自転車の「ながら運転」の罰則が強化され、酒気帯び運転に対する罰則が新設された。ながら運転で事故を起こすなど交通の危険を生じさせた場合は、1年以下の懲役か30万円以下の罰金。酒気帯び運転は3年以下の懲役か50万円以下の罰金とした。
こうした罰則強化の背景には、自転車が絡む交通事故の増加がある。警察庁の統計によると、令和5年に発生した自転車関連の事故は7万2339件で、前年より2千件以上増えた。
自転車の事故に詳しい大阪弁護士会の杉田章弁護士は「自転車が加害側となる交通事故が認知され始めた」とし、厳罰化が事故抑止につながると評価する。
一方、今回の訴訟で加害側とされた10歳児のような、処罰対象とならない年齢層でもマナー向上は必須。だが免許制度のない自転車では、利用者への周知の機会がどうしても限られる。杉田弁護士は「まずは親世代への呼びかけを進め、家庭内での教育を促す必要がある」と話した。(弓場珠希)