国内のホテルで運営会社の交代に伴うリブランド(ブランド変更)が急増している。新型コロナウイルス禍で閉業に追い込まれた宿が相次いだことが背景にあり、外資系ホテルを中心に運営を引き継いで改装した上で自社ブランドに名称変更している。新規の建設や建て替えよりも建築費や工期を抑えるメリットがあり、活況する訪日客需要をつかもうと国内勢も入り乱れながら市場争奪戦に火花を散らしている。
ニーズ対応、すばやく開発
仏ホテル大手のアコーは、大和ハウス工業傘下の大和リゾートが北海道から沖縄まで展開していた22軒を今年4月、「グランドメルキュール」などのブランドに刷新した。リブランド前は国内客だけを主眼に置いた設備やサービスが課題だったため、地元食材を洋風にアレンジした食事や温泉が料金に含まれる「オールインクルーシブ」を新たな武器にすえた。
アコー日本法人のディーン・ダニエルズ代表取締役は「訪日リピーター層の関心はローカルな体験に向かうはず」と自信をみせる。
一方、米マリオット・インターナショナルは、コロナ禍で経営破綻したユニゾホールディングス(HD)系ホテル14軒をアジア初進出の「フォーポイント・フレックス・バイ・シェラトン」に順次、変更。英インターコンチネンタルホテルズグループ(IHG)は、同じく経営破綻したWBFホテル&リゾーツが運営していた大阪市の施設を12月に「ガーナー」として新規開業する。
ホテルのリブランドで外資系の動きが目立つことについて、「ダブルツリーbyヒルトン」へのリブランドで着実に拠点を増やす米ヒルトンの幹部は、訪日旅行のニーズに対応する上で「ホテルを早く開発できることが最大の利点だ」と指摘する。
観光業界に詳しいSOMPOインスティチュート・プラスの小池理人上級研究員は「急増する宿泊需要に対応するニーズと、経営難で事業を手放すニーズが合致することで既存ホテルのリブランドが増えている」と説明する。
お菓子のシャトレーゼも
こうした外資系の動きに対し、国内勢も地方の施設を中心にリブランドを進めている。
マイステイズ・ホテル・マネジメント(東京)は2022年7月、日本郵政の「かんぽの宿」などを「亀の井ホテル」にリブランドした。山本裕規執行役員は「国立公園内など一からは容易に進出できない好立地の宿もあり、国内外から集客が狙える」と指摘。土地特有の魅力を引き出すことで「前身の施設が築いた歴史や古さを長所に生かせる」と利点を話す。
菓子製造・販売のシャトレーゼHD(甲府市)は、広島県呉市から取得した保養施設を今年9月にリゾートホテル「シャトレーゼ ガトーキングダム せとうち」に再生した。100万坪の広大な敷地で、来年には見学可能な工場も建設する。設計・デザインを手がけた乃村工芸社は「菓子のファンは海外にも多く、ベッドを備えた和室を配備し、日本文化も感じられるようにした」とする。
小池氏は「都市部で過度に集中した訪日客需要は近隣住民の負担を増やすのみならず、外国人観光客の満足度も下げている。リブランドによる付加価値の向上が地方の観光需要の改善につながる可能性がある」と期待している。(田村慶子)