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「丸亀製麺」なのに香川・丸亀に店舗なし トリドール、うどん作りを学ぶ「心の本店」開業

産経ニュース 2024年12月15日 10時0分

大手うどんチェーンの「丸亀製麺」などを展開するトリドールホールディングス(HD)が、讃岐うどんの本場として知られる香川県丸亀市の離島、広島(通称・讃岐広島)に、研修施設「心の本店」をオープンした。丸亀製麺と名乗りながら丸亀市発祥ではなく、同県で営業するのは高松市内の1店舗のみ。ネット上などでは店名への批判もある中、同社が〝聖地〟と位置付ける丸亀市に研修施設を設けた目的とは。

原点に立ち返る

「原点に立ち返り、生産者への感謝や食材への思い、おもてなしの心を学ぶ場にしていきたい」

11月27日に開かれた記念式典で、トリドールHDの創業者、粟田貴也社長(63)は心の本店についてこう説明した。

丸亀製麺は香川県内には1店舗しかないが、丸亀市とは同じ名前のよしみで関係が深い。兵庫県加古川市出身の粟田社長が同市で焼き鳥店開業後に店舗の差別化を模索していた平成10年ごろ、父親の故郷である香川県を訪れ、目の当たりにした製麺所の行列から鮮烈な印象を受けた。讃岐うどんへの憧れを表象する名称として、縁起のよさそうな言葉でもあり「丸亀製麺」と命名した。同社にとって丸亀市は聖地というべき位置付けだ。

同社は令和4年に丸亀市と地域活性化に関する包括連携協定を結び、離島振興などに取り組む。

丸亀市との調整役を担っていた同社の木村成克(あきよし)CSV推進課長(46)は、島民の温かさに惹かれ2年前に讃岐広島へ移住。1カ月のほぼ半分は島にいて残りは出張や本社で勤務する。最初の1年は島になじむことを心がけ、自治会や消防団に参加して島民との交流を深めた。

小麦づくりの師匠と仰ぐ山脇千枝子さん(94)と出会い、畑を借りて小麦栽培を始めた。農作業は未経験だったが、「重労働で腰が痛いけど楽しい。農家の丁寧な仕事ぶり、作物への思いを知ることができた」と木村課長。「店には製麺機があるし、ボタン一つで小麦が発注できる。小麦を手で植えて麦踏みをし、鎌で刈り、脱穀まで自分たちでする。経験してみなければ、生産者の苦労や気持ちは理解できない」と力説する。そんな思いから、社内活動報告会で心の本店構想を提案、実現にこぎつけた。

うどん作り体験

心の本店では施設前の約990平方メートルの畑で小麦を栽培。製粉して海水を沸騰させて作った塩と水で麺にし、薪たきの釜で麺をゆでる手打ちうどん作りを体験できる。

店内製麺にこだわる丸亀製麺ではスタッフ個々の判断を伴ううどん作りを重視し、技術力向上と教育システムの一環として平成28年に「麺職人」制度を創設。筆記試験や実技試験で判定される。4階級あり、今年9月末時点で全従業員の約5%に当たる1739人の麺職人が誕生しているが、「二つ星」は9人、「三つ星」以上はいない。

心の本店は必要な原材料の調達から1杯のうどんに仕上げるまでの工程を実践する「三つ星」の研修と試験の会場としても活用。さらに「親子うどん作り体験教室などを開き、島の交流人口増加にも貢献していきたい」(木村課長)という。

記念式典では粟田社長らによるうどんの食べ比べが行われた。昆布と混合節の出汁を使った丸亀製麺のかけうどんと、心の本店で作った手打ち麺と特製いりこ出汁のかけうどん。式典後には集まった島民らにもエビ天うどんが振る舞われた。

「食の感動」体感を

「手作り、できたて」を全面に出して人気を集める丸亀製麺は積極的な海外進出により、今年9月末時点で国内外に1134店を展開し、来年で創業25年を迎える。従業員に「食の感動」という原点を再確認してもらいたいという栗田社長は「心の本店の役割は非常に大きい」と指摘。「うどん作りの原風景や本当の手打ちを体験し、ここで培われる技術と情熱が、讃岐うどんの伝統継承と未来の創造に貢献することを期待している」と力を込める。

丸亀製麺の山口寛社長(43)は「讃岐の地は私たちの憧れの場所。讃岐広島には祖母の家のような懐かしさ、温かみを感じる。尊敬する部分が多く、たくさん学ばせていただきたい」と語る。

丸亀製麺のうどん作りの番人でただ一人の「麺匠」である藤本智美(さとみ)さん(63)は今年度内をめどに島に移住する予定。「私自身も、うどん作りの原点に立ち返れる場所で、新しい刺激をもらった。そうしたうどん作りの心の部分を広めていきたい。温かく迎えてくれる島民に恩返しができれば」と意気込んでいる。(和田基宏)

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