JR全線の普通・快速列車が乗り降り自由になる「青春18きっぷ」のサービス内容が今冬販売分から改定された。利用期間中に任意の5日間で使ったり、1枚で複数人が同乗したりすることができなくなった。ただ、新しく登場したのが従来より短期間となる3日連続用。5日続けての休みは難しいが、3日連続なら行けそう。1万円で購入して、久しぶりに青春18きっぷでの旅に出てみた。
まず初日に訪れたい場所を決めた。四国の土讃線にある秘境駅の坪尻駅(徳島県三好市)、国道32号沿いの道の駅大歩危にある展示施設「妖怪屋敷」(同)にした。同市の山城町地区には多くの妖怪伝承があり、あの有名な妖怪のゆかりの地でもある。
土讃線の多度津を11時39分に出る阿波池田行きに乗る。これなら坪尻に停車するし、妖怪屋敷も営業時間内に行ける。時刻表を開き、大阪発は何時ごろかと逆算すると6時台。早朝からの乗車は体力的にきつい。そこで相生-岡山間は新幹線を使った。もちろん乗車券、特急券の別料金2160円が発生するが、大阪発は8時台と余裕が生まれる。
「課金」にはもうひとつ理由がある。青春18きっぷのシーズンによくあることとして、編成の長い列車から短い列車に乗り換える場合、乗客の数はほぼ変わらないため、非常に混雑する。相生-岡山間もそのひとつなのだ。
瀬戸大橋を渡って四国へ。多度津発に乗り継ぎ、12時30分に坪尻に到着した。坪尻駅のホームはスイッチバックの側線にある。列車は駅を通り過ぎてから後退して駅に進入。運転士は車内を通って運転席を移動する。周囲に道路や集落はなく、普通列車だからこそ味わえる秘境駅。特急が本線を走り抜けた後、列車はゆっくり出発。するとホームからこちらの列車を撮影している人が。青春18きっぷユーザーだろうか。
妖怪屋敷の最寄り駅、大歩危には14時18分に着いた。タクシーに乗り、10分ほど走った山道の道端に建っていたのは、水木しげるの漫画「ゲゲゲの鬼太郎」でおなじみの「児啼爺」(子泣き爺)の石像。台座の文字は水木しげるの直筆。民俗学者、柳田國男の著書「妖怪談義」で紹介され、このあたりが「発祥の地」であることを説明する碑が横に立っていた。
妖怪屋敷は60体の妖怪が展示されている。手作りの温かさが伝わってきて、ほのぼのとした感じだ。昭和のにおいもして、妖怪好きだけでなく、家族でも楽しめる施設だ。もちろん児啼爺は妖怪屋敷にもいて、大歩危駅にも像があった。
児啼爺推しの妖怪の里を離れ、この日宿泊する宇多津町(香川)に向かう。坪尻は今度は通過。駅舎には明かりがぼんやりと灯っていた。(鮫島敬三)