インバウンド(訪日客)の急増で受け皿となるホテルへの投資熱が高まる中、マンションと一体開発する事例が増えている。宿泊施設の容積率(敷地面積に対する延べ床面積の割合)緩和でホテルの高層化が容易となったが、初期投資がかさむホテルをマンションと一体化することでリスク分散を図る狙いがある。マンション住人にとっても、管理費などの負担なくホテルの客室や設備を共用施設のように使える魅力があり、富裕層のニーズを取り込んでいる。
マンション住人もスパ利用可
2022年3月に完成した「梅田ガーデン」(大阪市北区)はJR大阪駅から至近の好立地にあり、地上56階建ての4~8階部分がホテルで、高層部に賃貸マンションを備える。マンションの1カ月の家賃は最高額が数百万円となるが、開発した住友不動産の広報担当者は「ホテル・賃貸マンションとも稼働率は95%を超え、ほぼ満室」とする。
ホテルは23年に個室サウナや酵素浴などがあるスパを新設し、マンション居住者も利用できるようにした。担当者は「スパはホテルの施設にあたるため、マンション居住者は管理費やメンテナンス費用を負担することなく、ホテルライクな暮らしができる」と強調する。
こうした複合ビルが増える背景には、国土交通省が16年に全国の自治体に通知した宿泊施設の容積率緩和がある。これにより高層化が可能になったホテルの投資効率は高まったが、設備や内装などで初期投資がかさむホテルはオフィスやマンションと比べて採算性に劣るため、ホテル単体を避け複合ビルにする動きが相次いでいる。
レストラン直通エレベーター
大阪・堂島のマンション・ホテル一体型の高層ビル「ONE DOJIMA PROJECT」(大阪市北区)は、容積率緩和制度が同市で初めて適用され、東京建物が24年5月に開発した。
高さ約195メートル、地上49階建てで、カナダの超高級ホテル「フォーシーズンズホテル大阪」が28~37階に入る。ホテルより上層部の分譲マンションからは37階のホテルレストランに直接アクセスできる専用エレベーターも用意されている。
マンションの最高価格は10億8千万円。関係者は「マンション購入者は高級なホテルやレストランを普段の生活に取り入れている層。高級ホテルとの同居が資産価値としても評価されている」と説明する。
堂島ではまた、三井不動産グループが27年春の完成を目指し、グループ初の分譲マンションとホテルの一体開発に乗り出している。約161メートルの高層ビルで「三井ガーデンホテルズ」の上位ブランドが入る計画だ。
東京より地方で加速の背景
加速する複合ビルの開発だが、東京は従来のホテルとオフィスの同居が主流なのに対し、地方でマンション同居型が目立つという。企業の東京一極集中の流れは変わらず、「地方におけるオフィス需要は限定的」(大手開発業者)というのがその理由だ。住宅なら全国的な需要が見込め、郊外の戸建てを売却して駅の近くに住み替えたり、東京と地方を出張などで行き来するためのセカンドハウスとして使ったりするニーズもある。
JR岡山駅前で野村不動産とJR西日本不動産開発が26年4月の完成に向けて進める複合ビルは、分譲マンション棟と一部にオフィスや商業施設を含むホテル棟を設ける計画だ。24年11~12月に実施されたマンションの第1期販売では、最高価格約3億7千万円を含む164戸が完売。地方都市でもホテルが一体となった「億ション」の需要が高まっている。(田村慶子)