ロシアによるウクライナ侵攻が長期化し、米国と中国の対立が激化するなど世界情勢が不安定さを増している。国内経済も停滞ムードとなる中、2024年の関西経済は堅実な成長をみせた。25年は経済界が総力を挙げて推進してきた大阪・関西万博が開幕を迎える。地元経済を牽引(けんいん)する関西財界3団体のトップに万博成功への意気込みや、景気の見通しなどを聞いた。(聞き手 井上浩平)
関西経済連合会・松本正義会長
関西の24年は、9月に先行まちびらきとなったJR大阪駅北側の再開発地域「グラングリーン大阪」や、大阪・関西万博に向けた事業などビッグプロジェクトが重なった。盛んな投資により、各方面に大きな波及効果が出ている。
グラングリーン大阪は27年度にエリアの全体開業を予定しており完成途上だが、都心に緑の空間があり非常に評判がいい。関西経済連合会は国立研究開発法人「産業技術総合研究所」(東京)と共同で「産総研・関経連うめきたサイト」を現地に設置しており、イノベーション(技術革新)の拠点としてさまざまな人々が出会う場となることに期待している。
万博は4月13日の開幕に向けて、海外パビリオンや大屋根(リング)が完成してきたが、入場券の売れ行きに課題がある。企業はかなりの枚数を買ったが、万博を成功させるためには一般の来場希望者の購入が進まなければならない。
これから万博で体験できることの具体的な中身が報じられることで、「万博に行ってみようか」という人が増えてほしい。多くの人に来てもらえるよう、機運醸成に加えて、安心・安全・快適な万博としたい。
閉幕後のレガシー(遺産)も重要であり、観光振興もその一つだ。大阪・関西だけでなく、西日本各地に海外や国内の人たちに来てもらえる仕組みをつくる必要がある。
24年のインバウンド(訪日客)は過去最多を記録した。関西国際、大阪(伊丹)、神戸の3空港に関し、関空、神戸の両空港の発着枠が拡大し、万博で増大が見込まれるインバウンドの受け入れ態勢が整う。神戸は万博開催時に国際チャーター便、30年をめどに国際線の定期便就航も見据える。インバウンド関連の観光やビジネスが盛んになり、物流にも大きなメリットがあるはずだ。
関経連は25年、上場企業の行動規範「コーポレートガバナンス・コード(企業統治指針)」の大幅な改定を引き続き訴えていく。企業が3カ月ごとに業績などを開示する「四半期開示」は、経営者や投資家の短期的な利益志向を助長するなどの問題があるためで、義務付け廃止に向けて政府と対話を重ねたい。
大阪商工会議所・鳥井信吾会頭
24年は日経平均株価が一時、4万円を超える一方、為替相場は極端に円安に振れ、原材料高もあって経営に打撃を受けた企業が多かった。海外でビジネスを展開している大企業と、日本国内向けが中心の中堅・中小企業とで明暗が分かれ、経済の転換期だったといえるのではないか。
国内外の政治も大きく動いた。米大統領選でトランプ氏が当選し、欧州などでも保護主義が力を得ているように映る。関西は最大の貿易国である中国の景気減速が顕著となり、25年は米国との貿易摩擦が懸念されるものの、経済規模の大きさを考えれば中国を軽視することはできない。経済安全保障などの問題はあるが、中長期を見据えた関係構築が重要となる。
今年は大阪・関西万博が開催される。主役はあくまで参加する国・地域や国際機関、民間企業であり、最先端の技術やサステナブル(持続可能性)に関する取り組み、自国の文化や食べ物などの魅力を発信する。
万博について、関西以外の地域では「大阪の博覧会」や「大阪府市によるテーマパーク」と思われているようにも感じるが、それは間違っている。国家イベントであり、世界各国は万博で自分たちのメッセージを発信することに意義があると考えて参加している。
私たちはそれを吸収しようとする姿勢が大事ではないか。万博を運営する日本国際博覧会協会は今、マーケティングに力を入れており、これから万博がさらに盛り上がることを期待したい。
万博の「大阪ヘルスケアパビリオン」では、大阪商工会議所が中心となって中小企業の技術を紹介する。例えば、大阪はかつて繊維の街として知られたが、繊維産業の事業者が連携して開発した「光合成する服」や「透明に見える服」などユニークな展示が行われる。
単なる分業ではなく、オープンファクトリーのように各企業が万博出展に向けて集まり、未来に希望をもたらすものを作る。これはチャレンジであり、イノベーション(技術革新)が起こる一番のポイントだ。
大商としてさまざまな中小企業をコーディネートし、夢に向かって進む前向きな精神を呼び起こすことを後押ししたい。
関西経済同友会・宮部義幸代表幹事
24年は新型コロナウイルス禍が完全に明け、関西にインバウンドも戻って、良い年だったのではないか。JR大阪駅北側の再開発地域「グラングリーン大阪」では年末、夜間のライトアップのイベントが信じられないほど多くの人でにぎわっていた。関西で交流人口が拡大し、人を集める仕掛けづくりが進んできたことを実感した。
25年は大阪・関西万博に尽きる。一時は準備に課題もあり大騒ぎになったが、政府をはじめとした相当なテコ入れと関係者の努力により、大きなトラブルもなく4月の開幕を迎えられそうだ。
前売り入場券の販売については、万博のコンテンツが出そろっていない状況で、よく売れていると思う。ただ、機運は「西高東低」であり、首都圏でもしっかりと盛り上げていく必要がある。
パナソニックグループは万博会場にパビリオン「ノモの国」を出展する。小学生世代を主なターゲットとし、大人が持っている先入観を捨てて、自由な発想で将来をつくっていこうというメッセージを込めた。少子化の時代だけに一人一人に輝いてもらいたい。
150以上の国・地域と9つの国際機関が参加する万博は、対面のリアルで海外と交流を深め、万博後も見据えた直接の接点をつくる絶好の機会となる。経済活性化へ海外の超富裕層の取り込みも重要となる。万博に向けて、さまざまな人や国、自治体、企業、大学などがエネルギーを集中している。関西経済が活性化するのは間違いないし、万博を一過性のイベントとしてはもったいない。
会場の大屋根(リング)の万博後の活用については各方面から提案が出ている。1970年万博の太陽の塔が議論の末に残されたように、大屋根が会期中の半年にわたり来場者にインパクトを与えた閉幕後、活用方法の提案を受け付けてもおもしろいかもしれない。
関西経済同友会は5月に自分が代表幹事を退任後、永井靖二代表幹事(大林組副社長)と、次期代表幹事に内定している三笠裕司氏(日本生命保険副社長)の体制で進んでいく。関西経済にとって大事な時期を、しっかりと引き締めてくれることを期待している。