少子高齢化による人手不足が深刻化する中、身体的負担を軽減したり、業務の効率化につながったりする作業用アシストスーツに注目が集まっている。岡山市で開催されている展示会は使われる現場を再現し、実際に装着して着け心地や利便性を体験できるもので、企業や団体などの関係者らに好評だ。介護や物流をはじめ、多くの業種で労働環境改善の〝切り札〟となりうる可能性を秘めており、需要の拡大が見込まれる。展示会を企画した医療用品メーカーのダイヤ工業(同市)の担当者は「当たり前に使われる状況を目指して開発に励みたい」と意気込む。
認知度のなさ痛感
岡山市のダイヤ工業のR&Dセンター内に9月2日~11月30日の期間限定でオープンしたアシストスーツの体験型展示施設「アシストスーツミュージアム」。アシストスーツ協会に加盟する10社のうち7社に、スポーツ用品メーカーのミズノ、消防車販売のモリタホールディングスを加えた計9社が出展。腕上げ作業や立ち作業、重量物の持ち上げ、移乗介助などの体験ブースが設けられ、実際の現場に近い環境で、アシストスーツを試せるようになっている。
アシストスーツには圧縮空気やモーターなどの力を利用し、重い荷物の移動などで腰や腕の負担を軽減するものなどがある。協会内ではモーターなどの動力源を持たず、ゴムや板バネなどの力を活用するタイプが主流。立ち仕事を座った感覚で行えるものや、上腕を上げた状態の作業の負担軽減するもの、ズボンとアシストスーツが合体したものなど、特徴的なアシストスーツがそろう。
アシストスーツは既に製造業や農業、介護などの幅広い分野で活用されているが、ダイヤ工業プロダクトソリューション部門の池田智浩さん(36)は「アシストスーツという言葉を聞いたことがあっても、どういう物か知られていないことを痛感した」と話す。多くの製品を一度に比較し、実際に試せる場があれば認知度アップにつながると考え、今回の展示会を開催。オープンから10月末までの間に一般や企業団体の関係者ら557人が来場した。
成長有望な市場
ダイヤ工業は1980年代に医療機器分野に参入し、コルセットやサポーターをベースにアシストスーツ開発を始めた。
現在はベンチャーから大手までさまざまな企業が開発に乗り出し、市場は拡大を続けている。
日本能率協会総合研究所の調査によると、令和5年度の国内のアシストスーツ市場は約8千台。矢野経済研究所が3年に行った調査では、市場規模は同年度に22億円を超え、その後拡大傾向をたどると予想されている。
池田さんは顧客ニーズについて「労災を防ぐ」という労働安全・安全衛生の観点と、建築土木業系や介護系、倉庫・運送業系では人手不足対策を挙げる。「労働人口減少対策では、新たに人を雇うか、今いる人に長く働いてもらうかの選択となる。(アシストスーツの開発は)健康体で長く働いてもらえるニーズを意識している」という。
見えてきた課題
展示会来場者の声から課題も見えてきた。その一つがパワー不足だ。
社員の1人が腰痛になったため急遽(きゅうきょ)、展示会を訪れたという広島県福山市のLPガス販売・住宅設備機器メンテナンス会社の籔田健一社長(49)は「実際に着けてみると、作業をする際に邪魔にならないことや、動きやすさが重要だと分かった」と装着感には満足した様子。一方で、「ガスコンロが多機能化して重くなり交換に2人必要になったので、スーツ導入で1人に戻せないかと思ったが、今すぐには難しそうだ」と明かした。
作業服販売業の男性も「筋力をあまり使わずに物が持てるというイメージが強く、少しギャップを感じた」と漏らした。
それでも、池田さんは「パワーアップへの強いニーズ、サイズ展開の少なさ、夏の酷暑対策、作業服との一体化、ファッション性・アパレル化など、技術的な課題がつかめた」と前向きだ。「日常生活も含め、さまざまな困り事の解決策としての可能性を広げたい」
ダイヤ工業広報部門の藤原舞利子さん(37)も「来場者のアンケートでは満足度が高く、認知度を上げられれば、成長につなげられるはず」と手応えを感じていた。(和田基宏)