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ウクライナ侵攻を経済発展の好機に 避難民を労働力に取り込むポーランドのサバイバル術

産経ニュース 2024年12月24日 8時0分

ロシアとの戦争が続くウクライナと国境を接するポーランド。2022年2月の開戦直後には数百万人のウクライナ避難民が流れ込み、現在も100万人弱が生活を続けており、ポーランドでは避難民への支援に伴う負担が避けられない状況だ。一方で、避難民を貴重な労働力として取り込んでいるほか、戦後の復興需要を見込んだ海外企業からの関心も寄せられている。戦火拡大の危険にさらされつつも、したたかに経済発展を目指すポーランドの現状を現地で取材した。

受け入れは当然、人口倍増の町も

「工場で働く約1800人のうち、約200人がウクライナ人だ。戦争前から勤務していた人もいるが、大半は開戦以降の避難民で、彼らはとてもよく働いてくれる」

ポーランド東部ポズナニ郊外にあるチョコレート工場の生産部門責任者は、避難民らの仕事をこう評価した。さらに「多くのポーランド人が英国やドイツなどで働いている。ウクライナ人の受け入れは特別なことではない」と強調した。

避難民が労働力として重宝される現状はポーランド各地で聞くことができた。

中部ウッチ近郊の町では避難民を大量に受け入れた結果、戦前と比べて人口が倍増したという。この町は地域の交通の要衝で物流拠点の整備が進められていたが、人手不足が課題だった。その不足を避難民が埋めているというのだ。

ウクライナとの国境沿いにあるルブリン県の商工会議所関係者は、約40万人のウクライナ人が建設や飲食などの業務に従事していると説明した。

100万人が居住、数々の支援

ポーランドは国土の東側をウクライナと接し、同国の首都キーウからは鉄道なら半日程度でポーランドの首都ワルシャワに来ることができる。ロシアによる全面侵攻でウクライナからは数百万人の避難民がポーランドを経由して国外に脱出したが、戦争開始から3年弱がたった現在も約100万人の避難民がポーランド国内で暮らしていると推定される。

ポズナニで避難民の支援活動を行う国際組織「カリタス」の事務所を訪れる機会があった。対応してくれたマリアさんも避難民で、家族とともにポーランドに避難してきたという。

マリアさんによると、ポーランド政府は子供や体が不自由な人がいる避難民の家族への金銭面での支援や、彼らを受け入れてくれるポーランド人家庭への支援のほか、雇用を提供する企業にも補助金を提供しているという。カリタスは、そのような申請作業の手伝いや語学の習得支援、企業と避難民のマッチングなどを行っている。

次は〝わが身〟

このような支援はポーランドにとって財政的な負担になるが、避難民の流入は慢性的に不足する国内の労働力を得られるメリットがある。

旧社会主義国のポーランドは、体制転換後は多くの人々が職を求めて他の欧州諸国に流出したが、04年の欧州連合(EU)加盟により移動はさらに容易になった。そのような中、不足する労働力を埋め合わせているのが、ウクライナやベラルーシなど旧ソ連諸国からの労働力の流入とされる。

ロシアによるウクライナ侵攻は、働き盛りの年齢層のウクライナ人男性が国外に出られなくなる側面がある一方で、避難民らは貴重な労働力となっている。取材に応じたウッチの市民は「ポーランドにとって最も大きな問題は、彼らが入ってくることではなく、むしろ停戦後に帰国して再び労働者不足に陥ることだ」と語った。

ウクライナ人が大量に流入することに不満を持つポーランド人がいないわけではない。前出のマリアさんは「避難民の流入で仕事が見つからないと批判する人もいる」と説明する。ポーランド人よりも安い給与で雇えることから積極的に雇用しようとする企業もあるという。

ただ、「多くのポーランド人は、ロシアに攻め込まれたウクライナを見て〝次はわが身〟と感じている。だからウクライナ人に強く同情する人が少なくない」とした。

リスクとチャンス見極め

ウクライナ支援はポーランドに他の経済効果をもたらす可能性もある。停戦が実現した後のウクライナの復興支援に関わる需要の取り込みだ。

陸路で結ばれ、EU圏内のポーランドは支援のハブ(拠点)になることが確実視されている。国際機関や企業がウクライナで事業を展開する場合、ポーランドにも拠点を設ける可能性がある。

世界銀行は2月、ウクライナの復興のために今後10年間で4860億ドル(約74兆円)が必要になるとの試算をまとめた。実際にどこまで支援が行われるかは不透明だが、巨額の資金が投じられる可能性は高い。それらの需要を取り込む上でも、ポーランドは各国の企業の注目が高まる。

日本貿易振興機構(ジェトロ)のワルシャワ事務所によると、危機勃発後も欧米企業の進出は堅調に続く。日本企業からも、ウクライナへの物流ルートに関する問い合わせが多数寄せられているという。ポーランド経済は23年は低成長に陥ったが、24年は3%の国内総生産(GDP)成長率が見込まれる。

ただリスクも残る。ポーランドでは22年11月にミサイルの一部が自国領内に着弾し、死者が発生する事態も起きた。今後停戦が実現し、ウクライナの復興が進むことが予想される一方、戦闘が拡大するような事態になれば、企業進出の妨げになるのは必至だ。

米国のトランプ次期大統領は、来年1月の就任後24時間以内にロシアとウクライナの戦闘を終わらせると主張したが、実際に思惑通りに早期停戦を実現できるかは不透明だ。ポーランドはリスクとチャンスを見定めながら、隣国での戦争勃発という危機を乗り切ろうとしている。(黒川信雄)

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