2025年大阪・関西万博で大阪府市が運営する「大阪ヘルスケアパビリオン」では、地元の繊維産業の中小企業が〝未来感〟を押し出したさまざまな製品を展示する。視覚効果で「透明に見える服」や、磁石を使った「宙に浮く靴」など既存の技術を生かした知恵や工夫が光る。大阪は古くから「繊維の街」として知られたが、半世紀ほど前から中国など海外勢との価格競争にさらされ優位性を失った。万博を起爆剤とした再浮上に期待がかかる。
「かつて繊維産業は関西の独壇場だった。今の状況は厳しいが『夢よもう一度』と思う。新たにトライすることがイノベーション(技術革新)につながる」。大阪商工会議所の鳥井信吾会頭(サントリーホールディングス副会長)は昨年12月20日の会見でこう語った。
大商と関西ファッション連合(大阪市)は万博開催期間の今年9月23~29日、大阪ヘルスケアパビリオンに大阪府内に拠点を持つ中小企業17社を集め、「サステナブル(持続可能性)に基づく繊維・ファッション産業の未来共創プロジェクト」を実施。会場には、繊維関連の中小企業や専門学校が手掛ける衣服などが展示される。
婦人服小売業のマツオインターナショナルなどは、光を反射する素材を使った「透明に見える服」を展示。「光学迷彩」の技術を活用し、服に背景の景色をプロジェクターで投影することで、着用者が周囲に溶け込んでいるようにみせる。万博本番では、植物の背景と一体化しているような演出を想定する。
製作に関わる桃谷順天館・桃谷総合文化研究所(同市)の杉野哲造所長は「各企業の技術や素材を多くの人に伝えたいが、展示するだけでは人の心に残らない。万博に来る人にワクワクする体験を届けたい」と語る。
靴メーカーのリゲッタ(同市生野区)は、電磁石の反発力を活用した「宙に浮く靴」を出展。磁力で靴を地面から少し浮かすという発想だが、磁力をうまくコントロールしてまっすぐに歩くことは容易ではない。
同社の高本泰朗社長は「万博ではケースに入れて靴が浮いた様子をみせるイメージモデルの出展になるが、将来的にこうした靴が実現できれば、歩く楽しさが増えるだけでなく、弾む力を利用して体が不自由な人を持ち上げるなど介護や福祉にも利用できるのではないか」と話す。
今回のプロジェクトでは他にも、黒色を染めた後に表面の形状を変化させて光の反射を抑えるコーティング技術により、さらに深い黒にした生地(京都紋付)▽食用に適さない古米や休耕地・耕作放棄地で栽培したコメを活用した生地「お米の合成皮革」(太洋商店)▽洋服を「第二の皮膚」とし、着るだけでスキンケア効果のある繊維「モイストファイバー」(桃谷順天館、オーミケンシ、東紀繊維)-などユニークな技術や製品が披露される。
万博での繊維産業の打ち出しについて、日本総合研究所関西経済研究センターの藤山光雄所長は「関西は製造業に占める中小企業の割合が全国でも高く、中小企業の活性化が地域の活性化につながる」と評価。その上で「万博で広くアピールする機会が得られれば、他の企業との連携や新たな販路の開拓などにつながる可能性がある」とし、企業同士の連携促進も欠かせないとした。
一方で、「万博限り」の発信になっては効果が薄れると指摘。行政や経済団体による継続的なサポートや、インターネット上で展示製品にアクセスできるようにすることが重要との見方を示した。(井上浩平)