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インドが日本の人手不足救う 14億人の活力、介護からITまで人材の宝庫

産経ニュース 2024年6月27日 10時0分

国内の人手不足の深刻化などから、企業で外国人労働者を受け入れる動きが進んでいる。外国人労働者の最大勢力は、かつての中国から近年はベトナムに移っているが、彼らも母国の経済成長に伴い、日本を目指さなくなるとの見方もある。こうした中、人材の新たな供給源として注目されているのが、約14億人と世界一の人口を誇るインドだ。現状では日本で働くインド人はわずかだが、ITなどの強みを持つ人材もおり、受け入れが進む可能性もある。

「特定技能」の協力覚書締結

「日本とインドの人材協力の余地は大きい。日本側の働き手の需要に対し、インドは即戦力の人材を直ちに供給できる」。大阪商工会議所が5月14日に開いた「インド人材セミナー」で、在大阪・神戸インド総領事館のニキレーシュ・ギリ総領事は、インド人材に関心を持つ日本企業の関係者らを前にこう語った。

ギリ氏は、インドが英国からの独立100周年となる2047年までに先進国入りを目指していることを強調。「歴史的な教訓から、これからインドは先進国が直面しているものと同じ課題に直面する」と述べ、インドの急速な都市化や工業の自動化、教育の拡充、高齢化社会など想定される課題の解決に、日本社会を学んだインド人に活躍してもらいたいとした。

セミナーでは、実際にインド人を雇用している日本企業の関係者が現状を紹介。日本で働く外国人労働者はベトナム人が20年から4年連続で1位となっているが、近年はベトナム人の犯罪が急増するなど「素行の悪さ」が問題視され、別の国を探す企業が多いことも明らかにされた。

日本でインド人材の受け入れが進んでいなかったのは、人材の送り出しと日本での受け入れ環境が整備されていなかったことが大きいとされる。日本で働く上で求められる能力が伴っていない人材も少なくなく、そうした人たちはインド近隣や英語圏の国々で働くことが多いといわれる。

日本とインドは21年、労働力不足に対応する「特定技能」に関する協力覚書を締結。インド人材の受け入れ態勢が整いつつある。

優秀層は米国や香港へ

インド人材はどのような特徴や強みを持っているのか。現地で日本語学校を運営し、これまでに日本での就業を希望する約290人を送り出したというARMS(愛知県刈谷市)は出身地別に次のように分析する。

北インドは、日本で技術を学び、将来は自分で会社をつくりたいという夢を持つ若者が多い。適職として機械やプラスチック成形、工業包装を挙げる。

北東インドは「東洋人の顔立ち」といい、性格はおとなしくて働き者。キリスト教信者が多く、食事制限もない。適職は建設や農業、食品製造などだ。

南インドは穏やかな性格で、日本企業が多い地域でもあり日本人に良好な印象を持つ。将来はエンジニアとして働ける学歴や知識を持つ人も少なくなく、機械や建設、介護などが適職だと考えられるという。

インドは職業選択の自由を阻むカースト制度の縛りがあることが知られるが、IT分野は近年登場した職種であり制度の制約を受けにくいことから、その分野にたけた人材が多いとされる。日本でもこのような人たちを中心に同族を頼って集まっている地域があり、4千人ほどが住んでいるという東京都江戸川区の西葛西は「リトル・インディア」と呼ばれている。

ARMSの担当者は「インドで非常に優秀な人材は米国や香港に行く。多くのインドの若者にとって、今の日本は目指すのに〝ちょうどいい〟国」と話す。

円安で日本に来るメリット少なく

日本で働く外国人は増加の勢いを取り戻している。厚生労働省によると、昨年10月時点での外国人労働者は過去最多の204万8675人(前年同期比12・4%増)で、08年の統計開始以来初めて200万人を超えた。新型コロナウイルス禍で伸びは鈍化していたが、増加率はコロナ禍前の19年の13・6%増と同水準となっている。

国籍別で最多はベトナムの51万8364人で、中国39万7918人、フィリピン22万6846人と続く。ごく少数のインドの個別の記載はない。

在留資格では「専門的・技術的分野」が59万5904人(24・2%増)と、過去最高の伸びを記録。この分野のうち「特定技能」が13万8518人(75・2%増)。「技能実習」は41万2501人(20・2%増)だった。

外国人を雇用する事業所数は過去最多の31万8775カ所で、このうち従業員30人未満の中小・零細事業所が6割以上を占めた。

東京商工リサーチ関西支社情報部の瀧川雄一郎氏は「人手不足に加え、円安の影響で技能実習生が日本に来るメリットが少なくなっているため、インド人材の登用を試みる企業が出てくるのでは」と推測する。

政府は、今年度から5年間の特定技能の受け入れ見込み数を82万人とする方針を提示。さらに、技能実習制度を廃止し、外国人材の確保と育成を目的として将来的に特定技能制度に移行できる「育成就労制度」創設を盛り込んだ入管難民法などの改正案が5月21日、衆院本会議で可決されている。

日本総合研究所関西経済研究センターの藤山光雄所長は「インド経済の成長とともに、海外で働くインド人やインドに進出する日本企業の増加が見込まれる」と指摘。日本企業がインド人材を活用することについて、「日本経済がインドの成長を取り込む一助となる可能性もある」とした。(井上浩平)

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