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18年ぶり宿命の大曲「釣狐」に挑む野村萬斎 能狂言「鬼滅」やドラマ出演で高まる存在感

産経ニュース 2024年10月6日 12時0分

現代を代表する狂言師として縦横無尽に活躍する野村萬斎(58)。12日、京都市左京区の京都観世会館で開催される「ござる乃座」で、18年ぶりの「釣狐(つりぎつね)」に臨む。今回初めて、「白狐之伝(びゃっこのでん)」の小書き(特殊演出)をつけて上演。「『釣狐』は私にとって宿命の大曲。この曲の神髄に迫りたい」と語る。

<猿に始まり狐(きつね)に終わる>

狂言師の修業過程を表す言葉だ。「『靱猿(うつぼざる)』で初舞台を踏み、『釣狐』は狂言師の卒業論文」という意味で、それほどに「釣狐」は難曲とされている。加えて萬斎にとって「釣狐」は特別な意味を持つ。父で人間国宝の野村万作は「狐役者」と異名を取るほど本曲を得意としてきたからだ。

「自分の中には、父が生涯追い続けた『釣狐』というものに対する執着があり、それをつないでいく宿命を感じる」と明かす。

「釣狐」は、一族を猟師に釣り捕られた古狐が、猟師の伯父の僧、白蔵主(はくぞうす)に化けて、狐を捕るのをやめるよう説得する。ところが帰途につく白蔵主は、わなにかけられた大好物の餌を見つけ、食べたいという衝動にかられ-。

前半、狐の着ぐるみの上に僧の装束を着て人間となり、後半は狐となって狐の物まねやアクロバチックな動きがあるなど、心・技・体ともに最高難度の技芸が要求される。

「私も前回までは死に物狂いというか、ボクシングの試合みたいに苦しさに耐え、暑さに耐え、体力の限界に挑み、という覚悟で勤めてきました。しかし、晩年の父の『釣狐』を見ていると、どうもそれだけではない。より自然というか、父が行きついた平常心のような境地を感じる。自分もそういう『釣狐』を演じる年代に来たのかなと。父が老年に勤めた『釣狐』を踏襲しつつ、自分なりの個性を出せればと考えています」

小書きの「白狐之伝」は万作が平成5年に試演した演出。後半の狐が白狐となり神格化される。「といっても、重々しくやるというわけではない。父の演技にはある種、軽やかさがあり、それがかえって狐に見えました」

本曲の主人公は古狐だが、人間に通底するテーマが浮かび上がる。

「執着というものを面白くも滑稽に映し出し、生き物の本能的なものがある。そこに、ものの哀れが感じられます」

今年は狂言以外にも、TBSテレビ系のドラマ「アンチヒーロー」で敵役の検事正、伊達原役での圧巻の演技が評判を呼んだほか、今冬には「能狂言 『鬼滅の刃』-継(つぐ)-」で演出・謡本補綴と、鬼舞辻無惨(きぶつじむざん)、煉獄杏寿郎(れんごくきょうじゅろう)、堕姫(だき)の3役を演じることも発表された。唯一無二の異才として、その存在感は高まるばかり。

「今や私もアラ還(かん)(還暦)。これまではあえて自分に苦行を課すところがあったが、経験値と体力と気力が充実しているといわれる60代をうまく楽しみたいですね」(亀岡典子)

公演の問い合わせは万作の会(03-5981-9778)。

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