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新知事就任で静岡空港の新駅構想が再浮上、JR東海の〝変化〟と複雑に絡む自治体側の思惑

産経ニュース 2024年7月9日 10時0分

5月の静岡県知事選で当選し、県の新たなリーダーとなった鈴木康友知事。就任直後から国土交通省やJR東海のトップと面会するなど、精力的な動きを見せている。こうした中、富士山静岡空港の直下を通る東海道新幹線の「新駅」を巡り、建設に慎重だったJR東海の〝変化〟がにわかに注目を浴びている。新駅構想が再び動き出すようにも映るが、県内各自治体の受け止め方は複雑だ。

テーブルにつかなかったJR東海

静岡県は、昭和62年に富士山静岡空港の候補地を牧之原市内の現在の場所に決定。その後、候補地の直下に東海道新幹線のトンネルがあることから、ここに新駅を設置するための可能性調査や要望を始めた。以来、30年以上にわたり、新駅設置が念願とされてきた。川勝平太前知事時代には県の予算に調査費も計上。新幹線のダイヤにまで踏み込んだ調査も実施し、その結果もまとめた。

しかし、JR東海は新駅について、十分な利用者が見込めないことや、駅が増えることにより所要時間がのび、高速鉄道としての特長を生かせなくなることなどを理由に実現の可能性を否定。交渉のテーブルにつくこともなかった。こうした姿勢は、昨年4月に丹羽俊介社長が就任してからも一貫していた。

対話路線に転換

ところが、今年6月になり、JR東海側の対応が軟化し始めている。鈴木知事が丹羽社長との面会で空港新駅の設置を求めると、丹羽社長は「課題はいろいろある」としながらも、「県の話を伺い、考えを受け止めながら対話していく」と述べ、協議に前向きとも受け取れる考えを示した。

この〝変化〟を後押ししたのは、リニア中央新幹線沿線自治体でつくる建設促進期成同盟会とみられる。同盟会は新駅の設置を含めた高速交通網構想を取りまとめ、6月7日の総会後にJR東海や国土交通省に要望した。

JR東海の変化を引き出した形の鈴木知事だが、その後の対応は冷静だ。同11日の定例記者会見や同25日の県議会での答弁では、新駅について「長期的な課題だと認識している」と述べ、性急に進めていく案件ではないとの考えを示した。

各市町は賛否さまざま

これは、現時点での県の考えでもあるようだ。背景には、「空港周辺も含めた市町の考え方には違いや温度差がある」(県関係者)といった事情もある。

市内に鉄道がない御前崎市や東海道新幹線のルートはあるが駅がない牧之原市には以前から新駅待望論があった。

「空港新駅には賛成だ。一般論だが、駅ができることで利便性が高まり、海外からの観光客も増えると期待される」(御前崎市関係者)

こうした声がある半面で、すでに東海道新幹線の駅がある掛川市からは「具体的な議論は今のところない」(市関係者)といい、「掛川駅は静岡空港に近いことから、空港と駅を結ぶシャトルバスが運行されている。新駅ができ、こうした玄関口としての機能がなくなるのはマイナス要因ではある」(企業関係者)との声も聞かれる。これでは、当の県内がまとまらない。

費用負担への懸念も

実際に新駅を設置するとなれば、費用の問題もある。

静岡市の難波喬司市長は6月5日の定例記者会見で新駅について問われ、「まだ具体的な動きではないと思うのでコメントはしない」とした上で、「(静岡県の)副知事だったときに(費用を)試算したが、当時の金額で450億~500億円だった。今だと700億円くらいかかるプロジェクトではないかと思う」と述べている。新駅設置に賛成の御前崎市も「費用は国とJR東海がもつ前提で、地元も負担するとなると賛成できない」(市関係者)といった状況だ。

費用に関しては、「県が出すこと自体も、空港から遠く離れた浜松などの西部地域や沼津などの東部地域の市町や県民を納得させるのは難しい」(県内企業関係者)とみる向きもある。

JR東海の姿勢に変化がみられるとの観測から再浮上の兆しがでてきた空港新駅構想。今後、県とJR東海との対話が始まるとしても、県や関係市町にも課題が山積しているといえそうだ。(青山博美)

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