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田植えを省くコメ栽培「イネの初冬直播き」普及の取り組み 農家の高齢化への対応急ぐ

産経ニュース 2024年8月29日 10時0分

田植えが省ける岩手県生まれの「イネの初冬直播(じかま)き栽培」が日本一の米どころの新潟県で注目の的だ。コメづくりの現場で急速に進む規模拡大の救世主と期待されているからだ。コシヒカリブランド米の岩船米の産地、同県関川村で今月19日に開かれた講習会には東北各地の講習会の2倍を超える約80人の生産者が参加、関心の高さを裏付けた。

従来方式ではコスト増の懸念

イネの初冬直播き栽培は岩手大学農学部の下野裕之教授が平成20年から実用化の研究に取り組んできた。コメづくりの現場では急速な規模拡大が進んでいる。リタイアが相次ぐ高齢農家の圃場(ほじょう)を受託栽培する担い手農家や農業法人に圃場集積が進んでいるためだ。

農林水産省の平成17年と令和2年の農林業センサスを比較すると、水稲の経営体数は174万戸が84万戸に半減、耕作面積は208万ヘクタールが178万ヘクタールと約15%の減少だった。令和2年の農業従事者(基幹的)の平均年齢は67・8歳で、圃場集積にさらに拍車がかかる見込みだ。

岩手県八幡平市の農業法人かきのうえは37ヘクタールでコメを栽培している。このうち10ヘクタールが初冬直播き栽培だ。代表取締役の立柳慎光さん(45)は「今年は6ヘクタール増え、来年は4ヘクタール増える予定。ハウスで1カ月がかりの育苗をして田植えを増やす余裕はない」と話す。

圃場集積で新潟県内では50ヘクタールを超える担い手農家、農業法人も少なくない。日本一の米どころの新潟県産米の需要が高いからだ。急速な規模拡大で育苗用のハウス増設や広大な面積の田植えは大幅なコストアップにつながりかねない。

福島、宮城では実用段階に

下野教授はこれを見越して春先に集中する農作業を分散して規模拡大に対応できる栽培方法として初冬直播き栽培の実用化に取り組んできた。種籾(たねもみ)を冬の寒さから守り実用化の目安となる春の出芽率40%以上のコーティング剤(チウラム水和剤=農薬の一種の種子消毒剤)を見つけ出した。

青森、岩手、宮城3県の農業法人は移植栽培と遜色のない10アール当たり500~600キロの収量を確保している。農水省や福島、宮城両県のホームページでも紹介された初冬直播き栽培は実用段階に入っている。東北でも比較的温暖で雪の少ない宮城県では種籾を2~3月に直播きする方法が確立され、昨年は岩手県内の農業高校の男子生徒が初挑戦して話題を集めた。

全国普及へ研究着手

新潟県内で初冬直播き栽培への注目度が高いのは東北より冬季の冷え込みが穏やかで、多い積雪が断熱剤代わりとなって種籾を0度に保って凍らせないなど、初冬直播き栽培に適した土地柄だからだ。関川村で2・5ヘクタールの初冬直播き栽培に取り組む農業法人上野新農業センターの大島毅彦社長は「初冬直播きは今年で3年目。実用段階に近い新潟県向きの技術。規模拡大だけでなくコストダウンの期待もある」と話す。

下野教授は農水省の新たな補助金で令和6年度から、初冬直播き栽培の全国的な普及を目指す研究に着手。全国の大学や研究機関、11道県の生産者が参加する5カ年のプロジェクトだ。

「初冬から半年以上いつ種籾を直播きしてもよい栽培方法の確立が目標で、出芽率は種子コーティングを強化して80%を目指し、温暖な西日本でも除草剤を20%減らして雑草を防げないかの研究にも取り組む」という下野教授。イネの初冬直播き栽培がどう普及するのか注目だ。(石田征広)

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