東京電力福島第1原発事故は今年3月、発生から14年を迎える。東電は昨年11月、紆余(うよ)曲折の末に2号機で溶け落ちた燃料(デブリ)の試験的取り出しに初めて成功。最難関のデブリ取り出し作業が動き始め、廃炉は国が定めた目標行程「中長期ロードマップ」の最終段階の第3期「廃止措置終了までの期間」に入った。しかし、デブリ取り出し以外にも困難な作業は数多く、再び襲来する恐れが指摘される津波対策なども欠かせない。現地に足を運び〝廃炉作業の今〟を見た。
設置進む大型カバー
福島第1原発に6基ある原子炉のうち、1~4号機の原子炉建屋が見渡せる高台に立つと、水素爆発で大破した1号機の建屋が真正面に迫る。その最上部、オペレーティングフロア(通称・オペフロ)には、今も大量のがれきが見える。
事故の衝撃を物語るオペフロの下部には使用済燃料プールがあり、今も392体の燃料が残されている。これを全て取り出し、より安定的に保管できる共用プールに移し替えるのも廃炉の重要なステップ。この取り出し作業も困難が待ち受けている。
燃料取り出しはオペフロのがれきを撤去し、空いたスペースに大型クレーンなどを新たに設置して作業を行う。がれき撤去の際は、放射性物質を含むちりが飛散したり、雨水が原子炉建屋に流れ込む恐れがある。危険を最小限にするため、原子炉建屋全体を覆う大型カバーの取り付けが進んでいる。
東電は「がれきは爆発で大破した屋根や天井クレーンなどが複雑に絡み合っており、撤去の際は事前に状況を詳しく調べ分析し、手順や作業方法を決める」(広報担当者)としており、綿密な準備が欠かせない。オペフロの下には燃料プールがあり、作業は慎重に行わなければならない。また、現場は放射線量が高く、作業を原則的に遠隔操作で行いたい考えで、問題をさらに難しくしている。
東電は大型カバーの設置を今夏までに終える計画だが、がれき撤去の具体的なスケジュールや、作業方法の詳細などは決まっていない。
魚類移動防止網
原発の敷地から海側を見ると、等間隔に並ぶ柱状の構造物が目に入る。第1原発の港湾内にはクロソイやクロアナゴ、アイナメなどが生息しており、セシウム濃度の高い魚が湾外に出るのを防ぐ網のくいだ。
網は満潮時の海面より1メートル高く、海底部も隙間が生じないように設置、海底で移動するヒラメやカレイなどにも対応しているという。当初導入した網は網目が5センチ角で耐久年数12年の繊維製だったが、網目が2センチ角で20年使える材質のものに変更した。魚類の移動を防ぐ網は3重に張られている。
高さ16メートルの防潮堤
1~4号機の原子炉建屋海側には巨大なコンクリートの壁がそびえる。高さ13・5~16メートル、幅5~10メートルの防潮堤で昨年3月に完成した。想定される日本海溝津波(約10~15メートル)に対応しており、総延長は約1キロに及ぶ。
この防潮堤の設置前、令和2年9月には高さ10メートル余りと想定される「千島海港津波」に対応する高さ11メートルの防潮堤が完成していたが、政府の検討会が「日本海溝を震源とする巨大地震の津波の危険が切迫している」と評価したことで防潮堤の高さが足りなくなり、急遽(きゅうきょ)新たに整備された。
今後、さらに大きな津波対策が必要になることも考えられるが、東電では「その際は昨年完成した防潮堤の上部に付け足す形で対応する」(同)としている。
防潮堤は原発施設への津波流入防止だけでなく、流れ込んだ海水と一緒に、原子炉建屋内にある高濃度の放射性物質を含む滞留水が、海に流れ出すのを防ぐ役割も担っている。(芹沢伸生)