過疎化に伴う鉄道利用者の減少で不採算路線が廃線に追い込まれる中、千葉県南部を走るJR久留里線も例外ではなかった。JR東日本が昨年11月、久留里線(32・2キロ)のうち、君津市内の久留里-上総亀山(9・6キロ)の廃線方針を表明した。廃線時期は未定だが、近い将来「消える鉄路」となる景色を目に焼き付けようと、2両編成のディーゼルカーに揺られ、終着駅に向かった。
交通系ICカード使えず
久留里線は明治45年、木更津-久留里で開業した。昭和11年に上総亀山まで延伸し、東京湾に面する内房エリアの玄関口・木更津と、紅葉の名所で知られる亀山湖や温泉があり、房総半島の内陸に位置する「奥房総」の上総亀山駅を結ぶようになった。
1月17日昼。肌寒いものの、澄み切った青空を見渡しながら、JR木更津駅前にあるラーメン店ののれんをくぐった。まずは腹ごしらえだ。会計を済ますと、「午後も頑張って」という男性店主の言葉に背中を押され、午後1時1分発の列車に飛び乗った。ちなみに「スイカ」など交通系ICカードは使用できない。
小気味よいディーゼル音を響かせて出発を待つ上総亀山行きの2両編成。定刻通り出発すると、その音はさらに激しくなった。
乗客はざっと40人近く。廃線方針を知ってか、スマートフォンで車窓からの景色を撮影したり、眺めたりする鉄道愛好家たちが目立つ。揺られること約50分。久留里駅に到着した。戦国時代に房総一帯を拠点とした里見一族の山城「久留里城」があり、城下町の面影を残す。築城の際、何度も降雨に見舞われたとの伝説から「雨城」の別名があるという。
時間つぶしの場所なく
ここからは景色が一変する。集落はほとんどみられず、雑木林を縫うように緩やかな勾配を走る。午後2時11分、終点の上総亀山駅のホームに滑り込んだ。無人駅だ。
出発時点で40人近くの乗客はほぼ半減。鉄道愛好家が多い。唯一、地元の人とみられる腰の曲がった高齢女性は降車後、線路をまたいでホームの反対側に向かった。
到着から約15分後。さっき乗車した車両に再び乗車した。上総亀山で折り返し、木更津に向かうためだ。乗りそこねると、3時間ほどまで待たなければいけないからだ。鉄道愛好家たちも事情は同じ。駅前に民家が点在するが、観光客が時間つぶしに立ち寄る場所はほとんどない。
木更津着は午後3時36分。往復約2時間半ほどの旅は、朝夕は別として沿線住民の利用も上下線の本数も少ない典型的な赤字ローカル線ということが肌身で感じた。
1日平均約60人
JR東日本によると、令和5年度の久留里-上総亀山の1キロ当たりの1日平均利用者は約60人にとどまり、100円の運輸収入を得るのに要した費用を示す「営業係数」は1万3580円で、大幅な赤字を生んでいる。
とはいえ、急速に進む沿線の過疎化に伴い、利用者の増加は見込めない。鉄道による大量輸送は縮小せざるを得ないのが現状だ。昨年11月に廃止方針を発表した同社千葉支社の土沢壇支社長は「バスを中心とする新たな交通体系へモードチェンジを図ることが最適だ」と説明した。「一人の鉄道員として申し上げるならば正直、さびしい」とも語った。
JR東日本や君津市などで構成する検討会が昨年10月、「車中心の交通体系に移行することで利便性が高まる」とする報告書をまとめたのも、廃線方針表明を後押しした。
「地域の足」は路線バスに
廃線後の「地域の足」を支えるのは路線バス。JR東日本や君津市などは今後、病院や買い物といった暮らしに欠かせない場所に停車する利便性の高い路線バス網を整備する方針だ。
ただ、路線バスの運行も採算が合うかは見通せない。事業主体や運行ルートに加え、費用負担などが課題となる。そもそもバス業界も運転手不足が深刻化している。
久留里線の存続を求める沿線住民団体「久留里線と地域を守る会」(三浦久吉代表)のメンバーは、路線バスの運行が持続するのかどうか不安を抱いており、久留里線は、過疎化や高齢化が進み、交通体系の維持に悩む地域の縮図といえる。(岡田浩明)