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群馬県庁動かす10代の提言 子宮頸がん予防やサイクルツーリズム…高校生メンター奮戦

産経ニュース 2024年10月13日 11時0分

群馬県の現役高校生が知事のメンター(助言者・相談者)となって政策や事業を提言する全国初の取り組みが始まって1年半。「高校生リバースメンター」と名付けられた制度が早くも成果を出し始めている。提言から生まれたラジオCMが日本民間放送連盟賞(優秀賞)を受賞し、別の提言はPR動画配信として実現した。事業化に向けて県職員の助言はあるものの、10代の新鮮な意見は職員をうならせている。2年目のメンターたちを取材した。

高1女子が若者の県外流出防止策提言

「私は群馬が大好き。でも東京の大学に進学して卒業するとき、戻ってきたいけれど、群馬に就きたい仕事はあるのかな。同じことを言う友達は多いです」

8月、山本一太知事への提言会で、幼さも残る前橋女子高1年の庭山藍沙さんは「群馬からの若者流出防止」をテーマに指摘し、地元で働く未来を高校生のうちからイメージしてもらうための方策を提言した。

具体的には、高校生を対象にしたインターンシップの拡大や県内企業冊子の配布、民間企業の専門家による授業、インターネットで高校生と企業を結ぶ仕組み作りなど、進学前に高校生と地元企業を結び付けようとの試みが並ぶ。

大学生向けにありそうな試みだが、それでは遅いという提言に、知事は「若い女性の県外流出は深刻で、人口減少にも直結する。地元で働くイメージを高校生のうちから得てもらうのは確かに大事。いろいろ踏み込んだ形で考えてみたい」と応じた。

高校生メンター制度2年目の今年度、県は4月から3週間、県内の私立を含む全高校の生徒に応募を呼びかけた。書類選考などで絞り込まれた10人は自らの提言を県の担当職員らと協議し、提言会に臨んだ。

ほかにも、男子生徒は引きこもりがちだった中学時代の自身を変えてくれた人気漫画「鬼滅(きめつ)の刃(やいば)」との出合いでアニメに目覚めたといい、群馬をアニメの聖地にすると提言。児童虐待やひとり親世帯による貧困を地域ぐるみで防ぐ場としての「子ども食堂の活用」として、女子生徒が提案したキッチンカーによる移動式食堂には、山本知事は「具体化を考えたい」と前向きだった。

東日本最大という1万3千を超す群馬の古墳の有効活用を訴えた男子生徒の古墳への愛情あふれる提言には、知事も「映画を作りたい。知恵を貸してほしい」。県政の最高責任者が、ときに10代と同じ目線で全員にコメントしていく。

提言がすべて実現するわけではない。だが11月上旬が期限の来年度予算要求に盛り込めるか否か、関係部局と高校生たちのすり合わせが進む。

ワクチン接種へ女子高生の思い

1年目の昨年度は手探り状態で、提言も生徒会活動への助成や校則関連など事業化しにくい校内事案も少なくなかった。一方で「県政を動かした」と知事が絶賛する提言もあった。

「子宮頸がんへの関心を広め、ワクチン接種などで罹患(りかん)率ゼロを目指す」。国内では厚労省が積極的勧奨を一時中止した経緯があり、接種励行の雰囲気は薄かった。だが当事者の女子高生たちの思いが提言となり県を動かす。接種で撲滅も視野に入る豪州やカナダなどの事例も知り、啓発ステッカー付き生理用品の校内配布、TikTok(ティックトック)での啓発動画などを展開した。

ショッピングモールでのワクチン接種は全国初の群馬モデルとなり、提言を基につくられたラジオCM「子宮頸がん予防ラップ/ねえねえ知ってた?」は日本民間放送連盟賞(優秀賞)に選ばれた。観光とサイクリングを結び付けた「サイクルツーリズム」を提唱した高校生が、山本知事と草津温泉を自転車で走る動画も制作された。

きっかけは「こども基本法」

高校生メンター制度導入へ群馬県がかじを切るきっかけは、令和4年6月に成立したこども基本法だ。11条で子供施策策定に当たり、子供の意見反映に係る措置を講ずることを国や自治体に義務付け、こども家庭庁は自治体向けに「Q&A」まで策定したが、役所側は困惑。ただ聞くだけの形式的措置が目立つ中、群馬県は知事の判断で10代のメンターを誕生させた。

自称「10歳以下まで下げられる」という山本知事の幅広い精神年齢もあって、メンターたちは「10代の友だち」(知事)として扱われ、提言会後は多くが「緊張したけれど、貴重な体験で楽しかった」と答えた。

山本知事は「県民との対話交流会の質疑で最近、高校生がいの一番に質問するようになった。メンター導入の副次的効果と思う。群馬は高校生が元気です」。そんな効果を期待して今年、福岡県古賀市が高校生メンター制を導入した。ほかにも導入に向け複数の自治体から問い合わせもあり、広がりを見せている。(風間正人)

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