時速20キロ未満で走る小型電動車「グリーンスローモビリティ(グリスロ)」の導入が進んでいる。国内各地で実証実験が行われ、本格運行している地域もある。ゴルフ場にあるようなカート型やバス型で、従来の公共交通ではカバーしきれない短距離や細い道を走る。高齢者の足として活躍する一方で、観光や中心市街地活性化にも役立てられている。専門家は「高齢化とともに今後も普及が進む」と見通す。
徒歩数分でも乗る
大阪のベッドタウンとして知られる奈良県生駒市の「萩の台住宅地」。昭和56年にまちびらきした地域で、令和6年11月1日時点では65歳以上の人口が約45%を占める。
この地域で市と地元自治会が協力し、グリスロの実証実験が7年3月31日までの予定で行われている。国や県の補助を得て市が約500万円で軽自動車より幅が狭いカート型の電動車1台を購入し、バスが走らない月、木曜日に各8、7便(7年1月から各7便)を無料運行。コースは設定されているが、停留所はなく手を挙げるなどして乗車し、好きな場所で自由に降りられる。住宅地内を巡回し、最寄りの駅や自治会館などと結ぶ。住民がボランティアでドライバーと添乗員を務め、乗客は定員5人。
住宅地内は坂が目につく。自宅まで利用した女性(83)は「歩いて2、3分だが坂が急なので乗る」、別の女性(84)は「(乗り合わせた人と)話ができるのがいい」という。
市の担当課は7年4月以降も運行を続けたいとしており、運行を担う元自治会長の山下博史さん(71)は「予約タクシーのように要請があれば運行する形にできれば」と話す。
日本遺産でも
平成30年度から普及を促進している国土交通省によると、グリスロは令和5年3月31日までに実証実験などで国内130地域で運行実績がある。
生駒市と隣接する大阪府四條畷市は実証実験を経て6年5月から水曜日と第3土曜日にカート型の電動車を起伏が激しい田原地域で本格運行。一部は自動運転で、そのほかは予約があれば随時運行する形式。高齢者らが原則無料で利用する。
「クジラのまち」として知られる和歌山県太地町も実証実験を経て4年から本格運行している。高齢者のために、狭い道が続く漁港近くの約3・2キロの2コースをカート型の電動車が自動運転で走行している。現在は毎日4台が運行し無料。町の担当者は「将来はまち全体に広げたい」と意気込む。
観光に活用するケースもある。茶の産地として知られる京都府和束(わづか)町は日本遺産「日本茶800年の歴史散歩」の構成文化財「石寺の茶畑」そばの細い道などでカート型の電動車を走らせている。この道は車が入りにくいため町が導入した。運行は3~11月の土、日曜日と祝日、振り替え休日で、1日4便が走る。
宮崎市では中心市街地の活性化に活用されている。市などでつくる協議会がJR宮崎駅前で人々に周辺を回遊してもらおうと開始。バス型の電動車が1周約2・1キロのコースを12分間隔で運行し、商店街の中も通る。市によると、「車体がかわいい」と人気で、5年度は約5万4千人が利用した。
地域巡るには十分
グリスロに詳しい東京大公共政策大学院の三重野真代(まよ)特任准教授(地域交通)は「日本の道路は狭く、小回りがきくグリスロはニーズが高まっている。時速20キロ弱はトップクラスのマラソンランナーと同じくらいで、地域を巡るには十分。公共交通の補完手段であり、高齢化がさらに進むと普及していくと思う」と展望する。そのうえで「車両価格は数百万円するが、もっと広がれば、量産され価格低下につながると期待したい」と話している。(張英壽)