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京大和歌山研究林が99年ぶり所有者に返還 大正時代から利用、今後も自然環境の研究継続

産経ニュース 2025年1月23日 8時0分

京都大が所有者から土地の使用許可(地上権)を得て運営していた和歌山研究林(和歌山県有田川町)が今月18日、99年ぶりに所有者に返還された。当初は人工林の研究などが行われていたが、時代とともに動物の生態や環境分野にも研究対象が拡大。京都大は土地を取得していた事務所を拠点に、所有者と新たな提携協定を結んで今後も教育や研究の場として研究林の利用を続ける。所有者の男性は「引き続き活用してほしい」としている。

99年間の許可

「教育研究活動に多大な貢献をいただき誠に感謝しております」。返還に先立って昨年11月、有田川町で行われた記念イベント。京都大で和歌山研究林を管轄したフィールド科学教育研究センターの館野隆之輔センター長から、土地を所有する海瀬(かいせ)隆太郎さんに感謝状が手渡された。

大正15年1月19日、土地の所有者で林業を営んでいた海瀬定一さんと当時の京都帝国大学が契約を結び、564・5ヘクタールを99年間使用する許可を得た。この土地は農学部付属の和歌山演習林として活用され、その後の追加や変更を経て現在は842ヘクタール(甲子園球場約219個分)になっている。

京大の『演習林概要』によると、この場所が選ばれた理由として「ヒノキの育成に適している」「3大林業地の吉野に近いこと」のほか、「大学から1日の行程であること」が挙げられている。とはいえ、当時は交通手段も発達しておらず、最終的には20キロ以上を徒歩で目指したという。

「99年」の年限が定められた理由については判然としない。昭和28年に有田川で起きた『紀州大水害』によって、詳しい資料も流失したという。定一さんから土地の所有権を受け継いだひ孫の海瀬隆太郎さんは「マルカ林業」(同町)の社長として林業に携わる。「残念ながらはっきりと残っている記録はないが、使用許可を出した目的は、おそらく林業発展など、社会のためになることを期待していたのではないか」と話す。

広がる研究対象

研究林の土地は、高いところで標高1260メートル、低い場所では450メートルと高低差が大きく、冷温帯と暖温帯の間の中間温帯。針葉樹と広葉樹の木が交ざって育つ。

日本で木材として広く利用されてきたスギやヒノキの人工林を育てるのに適した気候という。戦後には製紙用パルプの需要が増えたため、広葉樹の人工造林も行った。

やがて当初は山深かった周辺地域の道路整備が進み、比較的アクセスがしやすくなった。次第に人工林の研究だけでなく、動物の生態などへ研究対象が広がった。環境省が全国の自然環境を継続して把握するための「モニタリングサイト1000」のうち、森林・草原調査が毎年行われるコアサイトにも登録されている。

京都大フィールド科学教育研究センターの徳地直子研究林長は「いつの時代でも、研究者にとって、研究できる場が与えられたことは喜びだったと思う。非常に感謝している」と話す。

高校生とフィールドワークも

地域との関わりも重視してきた。林業や生態系への理解を深めてもらおうと、地元の児童生徒らに森林学習の機会を提供してきた。

平成14年度からは、県立有田中央高校清水分校の3年生を対象にした選択科目「ウッズサイエンス」を実施。研究林の研究者らが参画し、1年間にわたって間伐や測量などの森林整備の実習をしたり、森の役割を学んだりする。卒業後に林業に就いた生徒もいるという。

同校の村崎隆志校長は「研究林での授業は生徒たちにも貴重な経験となっていた」と話す。

京都大は海瀬さんと新たな提携協定を結び、引き続き教育や研究の場として利用を続ける。「和歌山研究林」の名称は今後も変わらない。海瀬さんは「まさか自分のときに返還されるとは思っていなかった。土地をお貸しすることで研究に貢献できたことは大変光栄なこと。引き続き、日本の林業や地域のために活用いただきたい」と話した。(小泉一敏)

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