紅葉の錦が目に楽しい時季。今回のテーマは「色」です。自然や芸術の色の美しさに触れる本や、人々の暮らしと色の関係に思いを巡らせる本など、多彩なラインアップとなりました。ただ、「香り」がテーマの前回に続き、どうしても食欲の秋に引き寄せられてしまうようで…。(司会 藤井沙織)
座談会メンバー
佐々木梓さん(ジュンク堂書店大阪本店)/大橋崇博さん(流泉書房)/百々典孝さん(紀伊国屋書店梅田本店)
「和」の色に魅せられる
佐々木 インスタグラムの影響で、〝映(ば)え〟の参考になる色の本は需要が高く飽和状態ですが、『新版 日本の色』(コロナ・ブックス編集部編/平凡社)は日本の色に特化しています。色の名前の由来や、その色が人々にどう親しまれたか、和菓子や工芸品の配色などを、がっつり解説。
藤井 草花が由来の色が多いですね。そんな中で「新橋色」の由来が面白い! このターコイズブルーと東京の新橋は、現代では結びつかない。あと茶系が多いのは意外です。
佐々木 茶道の流行で、江戸時代はお茶の色が着物でも愛好されたそうです。
大橋 僕のは『息のかたち』(いしいしんじ著/講談社)。コロナ禍のお話で、主人公の女子高生は、飛んできたバットが頭に当たった後、人の息に色がついて見えるようになる。そういう家系みたいで、何か事件が起こるわけでもなく、ただ息が見える彼女の青春の日々を描いた、いしいしんじさんらしい作品です。
百々 息の色の違いに意味はあるの?
大橋 元気な子供の色は明るく、疲れたサラリーマンは、汚い色をダラダラとこぼしているんですって。あと、透き通った息をした武道の達人に出会って弟子入りします。
藤井 その違いに、妙に納得できるのが不思議。思えばコロナ禍ほど、自分や他人の呼気を意識したことはありませんでした。百々さんは海の色ですね。
地球は、なぜ青いのか
百々 『あおいほしのあおいうみ』(シンク・ジ・アース編著/一般社団法人Think the Earth)。地球が青いのは、海があるから。そして海があるのは、太陽との距離が「ハビタブルゾーン」にあるから。奇跡的に生まれた海から、生命は誕生した。そんな海に関することを全て網羅した本です。
藤井 一見すると絵本のようですが、宇宙に生物の進化に、海にまつわる科学技術や職業まで、多岐にわたって書かれていますね。
大橋 環境のこととか、地球のことを考えるきっかけになりそうやね。
百々 そうそう。あとこれ見て。最新型の帆船。
藤井 これは、帆船のイメージが変わりますね!
百々 2冊目は芸術の秋ということで、美術ミステリーの『楽園のカンヴァス』(原田マハ著/新潮文庫)。ルソーの作品「夢」に似た絵画の真贋(しんがん)を、ニューヨーク近代美術館のキュレーターと、日本人研究者の2人が判定する。それぞれの推理がなるほどと思えて、表紙を何回も見返してしまう。物語を楽しみながらルソーに限らず美術を見る目を養えます。
藤井 小説や漫画だと、なぜか知識がすっと頭に入ってくるんですよね。さて、残すは2冊ですが…。
バナナは黄色いもの?
百々 何で君たちはまたご飯なの。キャラかぶってるやん。
佐々木 いやー、結局また行きついちゃいました。
大橋 『みそ味じゃないみそレシピ 「ひとさじ」で変わる新しいみその使い方』(minokamo著/池田書店)。卵サンドにナポリタン、ハヤシライスとかにみそを入れるとおいしいんですって。そして、使うみそが色で示してある。薄い茶色から濃い茶色のグラデーションが載ってて、料理ごとに、このへんの色のみそを使ってねと。
藤井 そうきましたか。確かにレシピに「みそ」とあっても、うちのみそで合う?って思いますし、種類を限定され過ぎても困るので、色で示してくれるのはありがたいですね。
佐々木 私のは『視覚化する味覚 食を彩る資本主義』(久野愛著/岩波新書)。人はおいしそうなものを、味ではなく色で決めている。例えばオレンジなら、皮が鮮やかなあのオレンジ色のがいいと思う。トマトは赤くて、バナナは黄色いのがあるべき色だと思っている。けれど、そうした色は作り出されてきたものだという味覚と視覚、資本主義のつながりが解説されています。
藤井 確かに、卵の黄身は赤みがかった物がおいしそうと思ってしまう…。
佐々木 ただ和菓子は事情が異なることが書かれていて、なるほどな、と。
藤井 『新版 日本の色』の和菓子のページとつながりますね。関係ないと思っていた本がつながるのって、面白い。