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「日本三大怪魚」アカメは3万年以上種存続 ゲノム解析から見えた驚くべき生き残り戦略

産経ニュース 2024年10月17日 8時0分

日本固有の大型魚「アカメ」。西日本に生息するスズキの仲間で、不気味に輝く赤い目を持つことから「日本三大怪魚」に数えられる。将来的な絶滅も危惧される中、大阪医科薬科大や理化学研究所などの研究チームは初めて全ゲノム(全遺伝情報)を解析。個体ごとに異なる遺伝子を持つ「遺伝的多様性」が魚類の中では最低レベルで、かつ個体数も少ないなか、3万年以上生き残ってきたことを明らかにした。専門家も思わずうなった、怪魚の生き残り戦略とは。

チームの一人で同大の橋口康之准教授(進化生物学)によると、アカメはインドから東南アジア、オーストラリアの沿岸や河川に広く生息する大型魚類「バラマンディ」の近縁で、十万~数万年にそれぞれ分化したとみられる。昭和59年、アカメとして新種記載されて以来、継続的に研究が行われてきたが、「なにせあまり目にしない幻の魚。日本での生息数や詳しい生態は現在まで分かっていない」と橋口氏は説明する。

ただ、都市化により生息場所が減ったり、釣られたりして個体数は急速に減少しているとみられる。宮崎県ではアカメの捕獲を禁止しており、環境省も平成19年、レッドリストで将来的な絶滅が危惧される「絶滅危惧ⅠB類」に指定した。

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研究チームではこうした現状から、アカメの詳しい生態を明らかにして保全活動につなげようと、「生命の設計図」とも呼ばれるゲノム解析を実施した。

ゲノムはA(アデニン)、G(グアニン)、T(チミン)、C(シトシン)の4種類の塩基からなるDNAに記録されている。塩基は「文字」に相当し、その並び順が「単語」となって全遺伝情報を表す。遺伝情報はそれぞれの生物固有のもので、親から子に受け継がれていくため、ゲノム解析により、生物の生命活動を明らかにすることができる。

今回の解析には、アカメの幼魚2匹を使用。その結果、個体ごとに異なる遺伝子を持つ「遺伝的多様性」が魚類の中では最低レベルで、すでに絶滅したトキや絶滅危惧種のゴリラと同程度だったことが判明した。

また、3万年前ごろから現代に近い時期まで、繁殖に関係する個体数は1千匹前後で推移していることも示された。このことから、実際に日本に生息するアカメの数はこの数倍程度と推定されるが、橋口氏は「それにしても1千匹程度というのは極めて低い」と話す。

一般的に生物は、遺伝的多様性が低いと環境の変化などに対応できず絶滅する可能性が高いとされる。さらに、少ない個体で繁殖を繰り返すと、近親交配によって、奇形など有害な変異を持つ個体が出現するリスクが高くなる。

それにもかかわらず、アカメはどうして3万年以上にわたって生き残ってこられたのか。その要因として考えられるのが、免疫などに関わる一部の遺伝子に一定の多様性がみられたこと。

多くの動物では様々な病原体に対応するため、免疫に関わる遺伝子にはさまざまなタイプが維持されている。解析の結果、アカメは生物としての多様性は低い一方で、他の動物と同様に病気やウイルス、感染症などへの耐性は一定、維持されていたことが示された。

今回の解析でアカメの生態が全て明らかになったわけではない。橋口氏は「アカメの全個体数の把握などはこれからの課題。まだ入り口に立ったばかりだ」と明かす。ただ、ゲノム解析の結果はアカメの適切な保全活動に利用されるという。

橋口氏は「アカメに限らず希少種が生き残るメカニズムが解明できれば、種の特性に応じた有効な保全対策に生かせる」と展望を語った。(小川恵理子)

アカメ

主に宮崎県や高知県沿岸部に住む大型の肉食魚。夜行性で、成長すると体長1㍍を超える個体もあるが、釣り上げられる機会が少なく、釣り人の間では「幻の怪魚」として知られている。三大怪魚の残る2つはイトウとビワコオオナマズ。

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