沙羅双樹の寺として知られる妙心寺塔頭(たっちゅう)の東林院(京都市右京区)で開かれている精進料理教室が11月、25周年を迎えた。精進料理を食べられる寺は少なくないが、精進料理を教える寺は珍しい。教室を主宰するのは東林院の西川玄房住職(85)。修行道場で食事当番をしていた経験を生かして始めた教室が「まさかこんなに長く続くとは感無量」と話している。
食材への感謝
「旬は瞬間のしゅん」「ゴボウもニンジンも野菜は本来皮がおいしい。無頓着に皮をむかないで」。西川住職が時折軽口を織り交ぜながら、禅の教えを踏まえた精進料理の神髄や考え方などを語りかける。11月初旬に開かれた教室には、全国から2人の男性を含む14人が参加した。
この日のメニューはキノコのカレーうどん、リンゴのサツマイモあえ、ゴボウとレンコンのきんぴらの3品。カレーは肉の代わりにこんにゃくを使う。参加者は2班に分かれ、材料の下ごしらえから調理、盛り付けまで手際よくこなしていった。
出来上がった料理は全員で試食。その際、食材や食事できることへの感謝を表す「食事五観文(ごかんもん)」を読み上げる。
神奈川県茅ケ崎市の中学教諭、一星利光さん(61)は、リフレッシュ休暇を利用して待望の初参加を果たした。包丁を握りながら、「和尚さんとみなさんのやり取りを見ているだけで楽しい」。
教室に20年以上通い続ける愛知県一宮市の主婦、西亮子さん(58)は「野菜を使った料理を学びたくて通い始めた。和尚さんだけでなく、ベテラン主婦の方から料理だけでなくさまざまなことを学べ、みなさんが私の母です」と笑みを浮かべた。
「料理は上手」とおだてられ
西川住職は精進料理の研究家としても知られ、『キッチンでつくる精進料理』や『誰にでもできる精進料理』(いずれも淡交社)など多数の料理本を出版している。
石庭で有名な龍安(りょうあん)寺(京都市右京区)と瑞龍(ずいりょう)寺専門道場(岐阜県)で計10年以上修行し、食事当番を任されて精進料理と出合った。「お経は下手やけど料理は上手やな」。こうおだてられ、懸命に料理を覚えたという。
35年間務めた妙心寺派宗務本所を60歳の定年で退き、一念発起して平成11年、自坊で料理教室を始めた。教室のために新たに厨房(ちゅうぼう)「添菜(てんさい)寮」も新築。厨房の名前には、教室で覚えた総菜を家でも作ってほしいとの思いを込めたという。
「檀家(だんか)のない寺なので、料理で人を呼べないかと考えた。ボケ防止にもなるし」と西川住職。「精進料理といったら大げさやけど、自分の知っているおばんざいをみんなで楽しく作っているだけ。続いたことは励みになり、これからも頑張って続けたい」と話した。
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精進料理体験教室は毎週火・金曜の午前10時~午後1時。材料費を含めて1人3600円。問い合わせと申し込みは東林院(075・463・1334)。(田中幸美)