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青木ケ原樹海で赤外線搭載ドローン巡回 自殺率ワーストの山梨県が対策本腰

産経ニュース 2024年10月19日 11時0分

人口10万人当たりの自殺者数(自殺死亡率)が昨年、発見地ベースで2年連続のワースト、住所地ベースでも7位と深刻な状況の山梨県が、自殺防止対策に本腰を入れている。自殺者が訪れる傾向がある「ハイリスク地」とされる富士山の麓の青木ケ原樹海では新たに赤外線カメラ搭載の小型無人機(ドローン)による上空巡回を導入して「水際対策」を強化した。働き盛りの男性の自殺が増えている現状への総合的な対策にも乗り出している。

上空40メートルから声かけ

青木ケ原樹海の中にある富岳風穴駐車場(富士河口湖町)から1機目のドローンが飛び、高度149メートルまで上がり巡回を始める。

県がドローンを使った自殺防止対策のデモンストレーションを公開。ドローンは樹海の中の様子を赤外線カメラで撮影し、モニターに映像を転送する。体温に反応し、白い人影がモニターに浮かび、樹海の中に人がいることがわかる。

スピーカーなどを搭載した2機目のドローンが人の上空約40メートルまで向かい、「何かお探しですか」「手伝いが必要なら合図してください」など、録音した音声や担当者の肉声で呼びかける。同時に、地上で待機している警備担当者が現地に直行し、保護する。

これまで昼間は警備員を配置しての見回りと声がけを行ってきたが、夜間は樹海に入った人を見つけることはできないため実施していなかった。それが赤外線カメラ搭載のドローンで夜間の巡回が可能になり、9月中旬から運用を開始した。

働き盛り男性世代突出

県健康増進課の知見圭子課長は「青木ケ原樹海が自殺の名所との情報が流れているが、(自殺しようと)訪れた人を保護し、減らしていきたい」と話す。

県によると、県内で発見された自殺者のうち、住所地が「県外・不明」の人が約3割を占める。これが発見地ベースで全国ワーストになっている要因でもあるが、住所地ベースでも令和5年は149人で全国7位で、前年の132人、29位から悪化した。

この状況を憂慮した県は今年9月に長崎幸太郎知事を本部長として、全部局長参加の自殺防止対策推進本部会議を開催。性別、年齢別での実態を分析し「根本原因の解消」(長崎知事)に向けて取り組む。

分析によると、男性の自殺者が40~49歳で前年よりも8人増、50~59歳で9人増、60~69歳で6人増と、この世代で突出して増加している。健康増進課では「仕事などにストレスを抱えての鬱病による健康問題に起因」と考察する。

山梨市とモデル事業も

これに対し、本部会議では自殺の危険を示すサインに気付き、声をかけ、話を聞いて、必要な支援につなげるなどの適切な対応ができる「ゲートキーパー」の養成や、働く人のメンタルヘルス不調を早期に発見するために、企業への精神科医派遣強化などの方針を打ち出した。

長崎知事は「人手不足が深刻化している中、働く人は極めて大切な存在になっている。経営サイドも自分ごととして向き合ってもらいたい」と、企業経営者にも呼びかける。

さらに自殺者が増加傾向にある山梨市で県と連携して住民、医療関係者、教育分野、産業分野らを交えた協議会を設立しての自殺防止のモデル事業にも乗り出す。この事業であげた成果を他の市町村に横展開していく考えだ。(平尾孝)

青木ケ原(あおきがはら)樹海

富士山の北西に位置し、山梨県富士河口湖町、鳴沢村にまたがる約30平方キロメートルの森林。富士山の貞観6年(864年)の噴火で流れ出た溶岩の上に形成されてヒノキ、アカマツなど多くの樹木が自生し、遊歩道も整備されている。松本清張の小説「波の塔」でヒロインが死を選ぶ場所として登場し、これがきっかけとなって「自殺の名所」のイメージが定着したとされる。

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