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高さは30階建てマンション相当、台形CSGで国内最大の巨体が姿見せる 秋田・成瀬ダム

産経ニュース 2024年7月28日 11時0分

秋田県東成瀬村に国が建設中の成瀬ダムで、3年半後の完成を前に台形CSGダムとして国内最大の巨大堤体が姿を見せた。高さはマンション30階、長さは東京駅―有楽町駅間にほぼ匹敵。一方、首都圏にも人気のダム工事見学会などで若い人の目が村に向き、スリランカ人作業員直伝の「成瀬ダムスリランカカレー」も人気を呼ぶなど、日本一のダムは早くも地域活性化に貢献している。

断面はピラミッド

岩手、宮城、秋田3県にまたがる栗駒山(1626メートル)に源を発する成瀬川の谷底に向け、バスが超大型50トンダンプとすれ違いながら工事用道路を下る。国土交通省東北地方整備局の成瀬ダム工事事務所が7月12日に報道公開したのだ。

ダム上流側の谷底から見上げる堤体は高さ96メートル、長さ755メートル。夏空に灰色の地肌をさらし、圧倒的な大きさで谷全面を遮る。

CSGとはセメントで固めたサンド(砂)とグラベル(砂利)の頭文字で、現地の砂利や砕石を使う。「CSGを厚さ25センチに打設して3層で1段とし、断面が台形になるよう積み上げる。打設は冬前に150段余りで完了する」と同事務所の安部剛所長。最終的な高さは114・5メートル。断面は表層が階段状でエジプトのピラミッドそっくりだ。

建設現場のDX

工事を担う鹿島建設などはデジタルトランスフォーメーション(DX)を大胆に進める。堤体打設では14台の重機をわずか3人の管制員が遠隔操作で24時間稼働。CSGの砂礫(されき)粒度測定はAI化し、砕石採取の進捗(しんちょく)管理をドローン撮影の3次元モデル化で飛躍的に軽減するなどしている。

成瀬ダムは昭和58年に事前調査が始まり、ダム湖に沈む国道の移設や川のせき止めなどを経て平成30年にダム本体工事に着手した。総事業費は約2600億円で、台形CSGダムでは堤体の高さ、長さ、体積に加え、総貯水容量も7850万立方メートルで日本一となる。

洪水調節や流量維持をはじめ、横手盆地中南部約1万ヘクタールの農地を灌漑(かんがい)し、日量最大約1万3千立方メートルの水道用水取水を可能にする。

堤体下流側に県が建設する発電所は7400世帯分の電力を賄える。この水力は発電専用ではなく、流量維持や水道、灌漑用の放流を利用するのも特徴だ。

若者や女性も関心

同事務所は先進工事の一般向け見学会を5~10月に毎月数回開いており、昨年は首都圏を含め約1200人が参加した。

秋田市出身の同事務所職員(19)は見学会で感動して東北地方整備局に昨春就職。東大を今春卒業した男性も同ダム工事の先端技術に魅了されて国交省に入り同事務所に赴任した。

DXで建設業のイメージが大きく変わって学校や女性職能団体の視察が急増するなど、工事現場が人材育成にも活用されている。

スリランカの縁

工事の作業員は6月時点で774人。うち109人がアジア圏の外国人で、中でも84人と常時最多なのがスリランカ人だ。

「村の飲食業者らが彼らにレシピを教えてもらって開発した」と同村商工会の石川友也事務長が話すのが「成瀬ダムスリランカカレー」だ。100グラム入りレトルトパックで540円。

「本場より辛さ控えめにしてもかなり辛くてスパイシー。発売2年で全国に知られ、特産品第2弾も検討している。観光・サービスという村にとって新たな産業分野開拓に成瀬ダムは大いに役立っている」と石川さんは打ち明ける。

谷藤登副村長は「村の人口はダム工事で県内唯一増加したが、完成すれば減少する。ただ、最先端技術を駆使する日本一のダムは村のイメージを変え、若い人にも目を向けてもらえるようになった。新たにできるダム湖も愛着ある名称にして村の活性化につなげたい」と期待する。(八並朋昌)

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