Infoseek 楽天

修業で作り上げた老舗の魅力 創業160年のそば処「庄司屋幸町本店」 山形  味・旅・遊

産経ニュース 2024年7月28日 9時0分

7月の祝日。正午前に訪れると、すでに店外まで老舗の味を求める列ができていた。山形市のそば処、庄司屋幸町本店。創業は慶応年間の1864年というから今年で160年。2つの世紀を超え、市内では1番古い。国指定の史跡・山形城三の丸吹張口の堀端に、そば茶屋として生まれた。

「現在の本店(幸町)の場所が、まさに創業の地です」

5代目の庄司信彦さん(50)がそう話す。店内に入ると、かつお節の香りとともに目の前にいろりが現れ、独立した勘定部屋から奥に行く座敷には客があふれている。江戸末期にも似たような光景が広がっていたかもしれず、不思議な感覚にとらわれる。

全国の手法を研究

庄司屋のホームページによると、4代目の武彦さん(82)が「全国津々浦々のそばを研究し、そばの基本は江戸にありと東京の名店を訪ね、いわゆるそばに関する神様のような人々の教えを受け、山形のそばとの合体を試む。特に、汁に関する事は鰹(かつお)節から醤油(しょうゆ)、味りん、汁作りの工程にいたるまで、山形のそばとの相性を研究。山形蕎麦研究会を立ち上げ、そば作りからそば汁、そば粉の何たるかまでの全てのノウハウを山形のそば店の若者たちと共有してきた」という。

信彦さんは東京・新橋の料亭「花蝶」で働いた後、東京・荻窪のそばの名店「本むら庵」で修業。この店では、映画俳優のブラッド・ピットやマイクロソフト創業者のビル・ゲイツら数々のセレブ(有名人)が訪れるニューヨーク店(現在は閉店)での4年間の勤務も含め、徹底的に「そば」を学んだ。

「食べさせてあげるではなく、客の要望に応えるのが職人。そばはニューヨークでも受け入れられましたね」。本むら庵を辞して20代後半で山形に戻り、4代目と二人三脚で店を盛り上げた。

店で使うそば粉は、大半が山形産で粗挽き粉にして味と香りを最大限に引き出す。そしてそば粉十に対して、つなぎ一の割合で作る庄司屋伝統の手打ち「といちそば」だ。

160年間変わらぬ味

今回は、といちそばよりやや太めで野趣に富む田舎そばの「藪そば」と、「さらしなそば」を一緒に盛った「相盛り板天」(2400円)を頂く。いずれも、そば独特の香りに甘みを感じ、「本物」を食べている至福の逸品。大きなエビにキス、カボチャなど天ぷら6品もそばを引き立てる。

信彦さんによると、時代とともにそばの打ち方などは変わってきているが、蔵王の水から作る「つけ汁」は160年間変わらぬ味だという。

「秘伝の味ではありません。うちの職人なら作れます。技術はオープンにして、良いものを地域で作り上げていきたいですね」

「冷やしラーメン」で有名な山形市は今年、「ラーメン消費額 日本一」を防衛した。ライバル出現に戦々恐々と思いきや、信彦さんは「山形では、そば屋でラーメンを出します。うちも昔出していて人気があった。おいしいもので人は動きます。世界中の人が山形にやってきたら、それはうれしいことですよ」と笑顔で話した。

(菊池昭光)

庄司屋幸町本店 JR東京駅から山形新幹線でJR山形駅下車、徒歩10分(月曜休み、営業時間は午前11時~ラストオーダー午後3時半、午後5時半~ラストオーダー午後8時)。本店の他に御殿堰七日町店もあり(不定期休、午前11時~ラストオーダー午後8時半)。山形駅から徒歩20分、タクシーで5分。

この記事の関連ニュース