日立製作所(東京都千代田区)は常陽銀行(水戸市)の協力を得て、財布やスマートフォンなどを持たずに手ぶらで買い物ができる無人店舗「CO-URIBA(コウリバ)」を日立工業専修学校(日専校、茨城県日立市)の学生寮内に設置した。生徒を対象とした金融教育も行える機能も備えており、商品の発注や補充といった店舗の運営は生徒自らの手で行っている。
何も要らずに購入
コウリバでは、生徒がまず入り口の専用機器で自分の携帯電話の番号を入力。続いて自分の顔が認証されれば、入店できる。
店内に陳列された菓子などを手に取れば、重量センサーが感知してどの商品が選ばれたかを自動的に判断。出口の機器に表示された「決済する」の画面表示を指でタッチすれば、買い物の手続きは完了する。
日専校は日立製作所が運営し、ものづくりの技術などが学べる企業内学校で、生徒は関連の高校にも同時に入学するダブルスクール制を取る。高校生はクレジットカードを持てないので、買い物の決済は常陽銀行の発行するデビットカードで行う。
「デビットカードで使えるのは銀行口座に入っている金額分まで。金額の上限設定も可能」(常陽銀行の担当者)で、生徒が買い物に自己資金を使いすぎるリスクは少ないという。
生徒が運営を担当
品物の補充や登録、どこにどの品物を置くかといった〝棚割り〟も含む店舗の運営は、基本的に生徒へ任されている。デジタル技術で社会や生活の形を変える最先端のデジタルトランスフォーメーション(DX)を学習・体験し、使いこなせるようになってもらうためだ。
運営を担当する日専校3年の丸山夏槻さん(18)は、「何も持っていなくても商品を買えるので、すごく便利」とコウリバを評価する。
商品の仕入れや登録などについては「最初は(機器の扱いが)難しいイメージがあったが、日立製作所の人に教わりながら、非常に楽しい経験になっている」との感想。
コウリバのようなシステムの開発については、「今回関わってみて面白いと思った。(将来)機会があればやってみたい」とうなずいた。
将来へ広がる構想
店内の商品棚の上に設置されたディスプレー画面には、金融教育に関する三択問題も表示される。例えば「クレジットカードの返済に困ったら」との設問には「A借金をしてでも返済する」「B家族や第三者の助言で解決策を探す」「Cそのまま様子を見る」の中から回答を選ぶ(正解はB)。
常陽銀行は、日専校や各高校などへ行員が講師として出向いて金融教育を行う「出前授業」を行っており、そのうち特に大事な内容をクイズ形式にし、店内で流している。
コウリバの今後の展開について、同銀行の担当者は「先端のDXによる決済を体験できれば将来、すごく役に立つ。県内の他の高校にも広げていきたい」とする。高校なら無人の購買店などを想定。企業など職場での需要も見込めるという。
一方、日立製作所の担当者は生徒の顔認証で取り入れたデータなどについて、個人情報などの保護には注意しつつ、「今後、日立市内のコンビニや書店などでも手ぶらで買い物ができるよう利用できれば、DXの世界が広がっていく」との構想を持つ。
将来的には、店舗の少ない過疎地域の高齢者ら〝買い物難民〟を援助するため、人工知能(AI)によるおしゃべり機能も備えたコウリバ設置も検討していく。(三浦馨)