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水上タクシーがつなぐ歴史と暮らし 6本の川とともに栄えた広島 西日本の水

産経ニュース 2024年8月17日 10時0分

市街地を縫うように6本の川が流れる広島市は、古くから水運業が発展し、護岸には階段状の船着き場「雁木(がんぎ)」が今も多数残る。かつて木材などの荷揚げに使われた雁木は、近年、小型ボートを使った水上タクシーの乗り場としても活用され、市民が水に親しむ場所として変わらずに生かされている。

ワンコインで船の旅

「船が思ったより速くて、風が気持ちいい」「川から見た広島の景色は初めて」

7月中旬の夕、旧太田川(本川)沿いにある住吉神社(広島市中区)横の雁木から小型ボートに乗り込んだ4人組の女子高生が、夕日に照らされた川面の景色に声を上げた。

この日、広島三大祭のひとつである同神社の夏祭り「すみよしさん」を訪れた4人が楽しんだのは、NPO法人「雁木組」(同市)が運航する水上タクシー「雁木タクシー」のクルージング。雁木組は毎年、海の神をまつる同神社の祭りに合わせ、中学生以上1人500円のワンコインクルージングを提供している。

船長の正路太さん(67)が「雁木は広島市内に約400カ所。元々、水運で運ばれてきた木材をここで上げていました」と説明しながら船を操る。

8月6日の広島原爆の日には灯籠流しが行われる原爆ドーム対岸の「元安川親水テラス」や、最大級の「楠木の大雁木」といった主立った雁木も紹介。10分余りの船旅を楽しんだ高校2年の志水智美さん(16)=同市安佐南区=は「雁木の存在は中学の授業で勉強したが、間近で見るのは初めて。こんなにたくさんあるとは知らなかった」と話した。

雁が飛ぶ姿

広島の川の街としての歴史は、毛利輝元が広島城を築城した16世紀末に始まる。

城下町は天然の川に加え、人工の堀や運河が張り巡らされた。川の流れが広島湾にそそぐため、海の潮位の影響で現在でも最大約4メートルの干満差があるのが特徴だ。満潮時も干潮時も船から荷揚げできるようにと、川沿いに雁木が設置された。

雁木組の副理事長、山崎学さん(70)は「当初は木組みで、雁が列を組んで飛ぶ姿に見えるので『雁木』と呼ばれ、その後、石やコンクリートに変わっていきました」という。

近年はボードの上に立ってパドルをこいで水面を進むウオータースポーツ「サップ」の乗り場としても使われるなど、新しい活用法も広がっている。

文化の継承を

雁木組が雁木タクシーの運航を始めたのは平成16年。船でまちなかを往来する楽しさを多くの市民や観光客に知ってもらい、新しい広島の魅力づくりにつなげたいと結成された。

雁木タクシーのほか、雁木のデータベースの作成や歴史の研究、保全活動も行っている。

かつて川に面した商家には各戸に雁木があり、山崎さんは「昔は、雁木で川に下りて洗い物をしたり、貝掘りをしたり、生活に密着していた。その近くでは今でいうプールのように水練場として子供たちが泳いでいたそうです」と教えてくれた。

「広島は、川と人々の暮らしが密接に結びついていた。雁木は広島の歴史の象徴なのです」

雁木タクシーは新型コロナウイルスの感染拡大前は年間約4500人の利用者があったが、コロナ後は客足が戻っていないという。

しかし山崎さんは「これからも、多くの人に水辺の暮らしや雁木について知ってもらうためにがんばりたい」と話した。

雁木タクシーの利用は平和記念公園周辺などのショートクルーズのほか、チャーターも可能。水位によっては運航不可の日もある。問い合わせは雁木組(082-230-5537)。(藤原由梨)

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