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シャインマスカット栽培にAI活用、スマート農業で「匠の技」実現できるか 山梨大など

産経ニュース 2024年8月1日 10時0分

ロボットや人工知能(AI)などの先端技術を活用した「スマート農業」が注目される中、山梨大を中心としたコンソーシアム(複数組織の共同体)は、高級フルーツ、シャインマスカットの栽培を支援するAI開発に取り組んでいる。栽培はこれまで熟練者に支えられてきたが、現場では人手不足や高齢化が進み、AIで「匠の技」を再現できるかがスマート農業実用化のカギとなる。

繁忙期でも実演会には150人超

「はっきり言ってシャインマスカットの摘粒(てきりゅう)は農業の中でも最高レベルの技術力が必要だ。ロボットでできるようになれば画期的だ」

山梨大、山梨県、県内の機械メーカーやIT企業などによる産官学コンソーシアムが7月8日に山梨市で開いたAI活用のスマート農業実演会で、山梨県山梨市のブドウ農家の60代男性は、摘粒ロボットの動作を見入っていた。

この時期の山梨県は、桃の収穫最盛期であることに加え、ブドウの袋掛け作業など、果樹農家にとっては最も忙しいシーズンだ。にもかかわらず、150人を超える果樹生産者らが集まるなど、技術への関心の高さがうかがえた。

種がなく、皮ごと食べられることもあって、年々人気が高まっているシャインマスカットだが、高品質化にはブドウの花穂の段階で摘み取る「房づくり」、ブドウの房から一部の粒を取り除く「摘粒」、そして「収穫判定」といった工程では熟練の技術が必要となる。特に「判別」の目が重要という。

最終的に粒の大きさや張り具合、房の形状などによって優劣がつき、摘粒などの作業の出来栄えで1房が5000円以上の高級品になったり、1000円以下にしかならなかったり、付加価値を大きく左右する。

「まだ現場では無理」

実演会の目玉は、摘粒ロボットだ。高さ約80センチのベースの上に、長さ約70センチのアームや房の状況を撮影するセンサーが付けられている。衛星利用測位システム(GPS)を使い、房まで自動走行する。房に到着すると、センサーで摘粒数と摘粒すべき粒をAIが選定し、アームに取り付けられたはさみで切り落とす仕組みだ。

今回の実演では房を半分切り落としてしまうなどのミスがあったり、ロボットがなかなか房の位置にたどり着けなかったりなど、問題も起きた。特に、作業時間を巡っては、笛吹市の果樹農家の男性が「熟練していれば摘粒作業は1房1分前後。ロボットは10分を超えていて現場では使えない」と課題を指摘したが、「人が作業できない夜間に動かすという使い方はありかもしれない」と現場に即した利用法も提案した。

さらに「ベテランが選ぶ粒を選定している」と、熟練者のノウハウを学習しているAIの判断力に一定の合格点を出した。

摘粒数推定のアプリも

このほか同様のAI技術を使って、摘粒すべき粒を指示することで、経験が少なくても熟練並みの品質を発揮できるスマートグラスによる支援システムや、スマートフォンで摘粒すべき数を推定するアプリなども実演、公開された。

コンソーシアムのリーダーで、画像処理技術などが専門の山梨大の茅暁陽理事は「摘粒ロボットはまだ開発途上のもので、現場で使えないことは十分承知している」としながらも、熟練農業者の摘粒すべき粒の選択などのAIによる判定技術の実用性は「かなりのレベルで確認できた」と、研究開発の進展状況を分析する。今回の実演会でも参加した農業従事者からは「ロボットやアームの小型化は必須」などの意見があり、「開発の方向性がかなりはっきりしてきた」という。令和4年度のプロジェクト開始時には9年度中の摘粒ロボット実用化を表明。茅氏は実演会を通じて出てきた課題を確認したうえで、高級フルーツをターゲットとしたスマート農業の技術開発のスピードを上げ、「実用化の予定は変えない」と強調する。(平尾孝)

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