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80歳でアメリカ大陸一周達成 誕生日は米国人から祝福 道路沿いで銃口向けられたことも

産経ニュース 2024年8月17日 12時0分

神奈川県藤沢市在住の市川栄一さん(80)が3月から6月まで約90日間かけて、自転車で米国の南側を横断し約6千キロを走破した。新型コロナウイルス禍前に数回に分けて北側を横断しており、長年の夢だった米大陸一周を達成した。巡り合った人に結婚式に招かれるなど交流を深め、ときには銃口を向けられる危機に見舞われることもあったがペダルをこぎ続けた。思い出を重ね、「旅で出会った人を神奈川に招きたい」と新たな夢を抱く。

走行距離は1日百キロ超

3月14日、10年以上乗っているというパナソニック製のスポーツ自転車にテント、寝袋、着替えなどの約20キロの荷物を積み、カリフォルニア州サンディエゴを出発した。目指すは6千キロ先のニューヨーク。道案内は1枚の全国地図、夜のお供はウイスキー。次の街には、ホテルはおろか、商店や飲食店があるかさえわからない冒険が始まった。

1日の走行距離は百~百数十キロ。朝7時に出発し、50分走って10分休憩することを繰り返した。日差しは強く、スマートフォンは太陽光電池で充電できたが、体力は消耗した。商店を見つけると、昼、夜、翌朝の3食分の食料を買い込む。パンに缶詰やウインナーを挟んだものやインスタント麺などを食べた。

夜寝るのは、テントだけでなく、民家の物置の軒下、駅舎など。円安と物価高騰で、サンドイッチは2つで40ドル(約6千円)、ホテルの料金も数年前に比べて3倍以上になっていた。

〝放浪仲間〟との出会いも

旅の醍醐(だいご)味はなんといっても出会い。道端で休んでいるところで話しかけられ、「いつまでいてもいい」と1週間以上お世話になった家族もあった。旅の途中で迎えた80歳の誕生日を祝ってもらったり、地域の集会や結婚式にも招かれたりした。

日本に牛肉を輸入しているという商社勤務の邦人男性は巨大な食肉加工施設を見学させてくれた。1日2200頭を解体するという処理場を前に、肉牛を満載したトラックが列をなす様子に度肝を抜かれたという。自分とは反対方向に歩いていく人、飼い犬と一緒に自転車旅を楽しむ人、簡易宿泊所で一緒になったダンサーなど、〝放浪仲間〟との邂逅(かいこう)もあった。「こういうのが旅なんだよ」と市川さん。

空軍基地に入り込み拘束

いい思い出だけではない。アラバマ州では道路沿いで休んでいるところを車に乗った男に「どこから来たんだ」と銃口を向けられた。レーザーポインターの赤い光が胸あたりをちらついていた。男はそれ以上は何もいわずに去っていったが、近くのガソリンスタンドの店員から「待ち伏せされているかもしれない」とアドバイスを受け、バスで隣町に避難した。

標識に従って道を進んだはずが「空軍の基地に入り込んだ」と拘束されたこともあった。大勢の警察官に囲まれ「裁判所に行け」といわれたが、「パスポートを没収されると旅は続けられない」と書類へのサインは拒否。3時間半にわたって旅の目的やこれまでの道のりを説明し、解放された。警察官は町までパトカーで送ってくれ、記念写真まで求めてきた。

ペダルの軌跡が大きな輪に

大学生だった21歳のとき、四国と九州を一周して自転車旅行の魅力に取りつかれた。「いつかはアメリカ大陸を」と決意し、家族などと国内各地の旅を重ねた。アメリカでの自転車旅行は73歳から始めた。平成28年から3年間をかけ、6度にわたって米国の北側を中心に14州約8700キロを走り、サンディエゴ-ニューヨークを結んだ。「自転車旅行のすばらしさを広めたい」-。その一心でペダルを踏んだ軌跡は、今回の旅で大きな輪となった。

住宅リフォームの会社を経営していた市川さんは「アメリカの看板は個性があって面白い。風景に味がある」と話す。帰国してからも旅で出会った人と「いつか神奈川にきてほしい」と交流サイト(SNS)などで交流を続けている。

実家を1階部分はいろりのある純和風、2階はアメリカ雑貨で飾ったカウンターバーに改装している。「次の夢はアメリカで出会った人を招き、酒を酌み交わすこと」という。(高木克聡)

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