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一世風靡した「ひかりレールスター」が存続危機 車内環境充実も「こだま化」で一日1本

産経ニュース 2024年8月22日 9時0分

隣の客の腕が気にならない「2+2列シート」や4人用個室など上質な車内環境を売りに平成12年にデビューした山陽新幹線の「ひかりレールスター」が、存続の危機を迎えている。対航空機の切り札として一世を風靡(ふうび)したが、九州新幹線の全線開業で存在感が薄れ、朝の上りで一日1本が残るのみとなった。レールスター向け車両の多くは「こだま」に転用されたものの、近く大幅な削減が予定されており、全面引退の日もそう遠くはなさそうだ。

彗星のように

《東京-新大阪間の東海道新幹線の利用客数は航空機に対して9対1と圧勝だが山陽新幹線(新大阪-博多間)は約2対1と大きく差は縮まる》

山陽新幹線新大阪-博多間では航空機とのシェア争いが激しく、JR西日本は昭和62年の国鉄民営化直後から「ひかり」のサービス向上に腐心し続けた。

63年に0系を改造した「ウエストひかり」が誕生。それまで普通車の座席は3+2列の横5列だったが、グリーン車同様の余裕を持たせた2+2列の横4列とした。「ひかりレールスター」は、この「ウエストひかり」の後継として平成12年に彗星(すいせい)のように登場する。灰色の車体に窓の周りを黒で覆い、窓下に黄の帯をあしらった独自色。白地に青の従来カラーとは一線を画した。16両がスタンダードな東海道新幹線には乗り入れないことから、需要に合わせた8両とした。

普通車指定席では2+2列の横4列シートを踏襲。車内放送が流れない「サイレンス・カー」やパソコンが使える「オフィスシート」。そして4人用個室の「コンパートメント」など、普通車と異なる趣がビジネスマンや観光客の心を捉え、デビューから半年余りで累計乗客数は約700万人に達した。

山陽新幹線の乗客数を押し上げるにつれ、レールスターの名は沿線に広く浸透したが、平成23年の九州新幹線博多-鹿児島中央間の全通を機に潮目が変わる。

「みずほ」「さくら」登場で意義薄れ…

新大阪-鹿児島中央の間を直通運転する「みずほ」や「さくら」が新たに誕生。途中停車駅が少ない「みずほ」は東海道・山陽新幹線における「のぞみ」に、比較的多い「さくら」は「ひかり」にそれぞれ相当する。

そもそも「ひかりレールスター」は、快適性や速達性を目的にJR西日本が独自に投入した車両であるため、新大阪-博多間でしか運行することができない。「みずほ」や「さくら」の運転に加え、東海道新幹線区間をまたぐ「のぞみ」にビジネス客が移行したことなどを背景に、「ひかりレールスター」は一定の役割を終えたとみなされ、運行本数を減らし続けた。

また「みずほ」と「さくら」に用いる車両はレールスターの700系を進化させたN700系。個室はないが、指定席はレールスター同様、ゆったり座れる2+2列配置で、最高時速は15キロアップの300キロに達した。

JR西は、レールスター向けの700系を16編成(各8両)保有し、ほとんどを、新幹線駅にすべて停車する「こだま」として運用している。だが、最新型N700Sの投入や老朽化に伴い、16編成のうち8編成を数年以内に引退させる方針を明らかにしている。

「こだま」とほぼ変わらず

山陽新幹線で「ひかりレールスター」の名で運行されているのは一日1本だけで、始発の新下関を午前6時11分に出発し、終点の岡山には同8時23分に到着する。新下関の隣の厚狭を通過するほかは各駅に停車。後続の「のぞみ」4本に途中で追い抜かれるダイヤが組まれており、運用形態は「こだま」とほぼ変わらない。

もはや時代遅れとなってしまったにもかかわらず、ほそぼそと運行を続ける「ひかりレールスター」。産経新聞の取材に対し、JR西は「近年のダイヤ改正で『のぞみ』をより多く運転できるダイヤにした結果、8両で運転する山陽新幹線完結の「ひかり」が減少。結果として現行ダイヤにおいて、定期列車で『ひかりレールスター』として運転する本数は1本となった」とだけ答え、なぜ1本だけ存続させているのかとの問いには答えなかった。(岡嶋大城)

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