宇都宮市で多くのラーメン通らに愛されている「鯛らーめん」が今年で、誕生から25周年を迎えた。魚だしスープにこだわり続ける同市のラーメン店「らあめん厨房(ちゅうぼう)どる屋」の主人、落合泰知さん(65)が試行錯誤の末に完成させた1杯で、鯛のうまみを詰め込んだスープは絶品だ。〝海なし県〟栃木でなぜ「鯛らーめん」が生まれたのか。
中華料理店から専門店に
宇都宮市役所から歩いて数分、目立たない路地裏に店を構える「どる屋」。メニューにあるのは「鯛らーめん」(正式名、黄金の鯛らーめん)のみ。スープも塩としょうゆの2種類しかない。ラーメンに鯛がそのまま入っているわけではなく、スープのだしに独自製法で一夜干しした鯛が使われている。
澄んだスープは魚臭さなどなく、上品であっさりしているが、鯛のうまみを凝縮。こくがあり、後味もすっきり。具材はロース、バラ、頰肉の3種類の焼き豚とネギのみだが、「もの足りなさはない」と常連客。素材にもこだわり、栃木ブランドの豚肉やネギを使っている。10坪ほどの狭い店内はお昼時ともなれば、ほぼ満席。「鯛らーめん」を求めて県内のほか首都圏から訪れる常連も。また女性客が多い。
「鯛らーめん」を作り出した落合さんは、鹿沼市出身。東京都内の調理師専門学校を卒業後、実家の中華料理店を継いだが、ラーメン専門店の道を選び店も宇都宮市に移転した。
そのころ落合さんの目にとまったのが、新横浜ラーメン博物館(横浜市)が出場者を募集していたラーメンコンテスト「ラーメン登龍門」第1回大会(平成11年)。落合さんが出場に向け頭に浮かんだのが本格的な魚だしのラーメンだった。
当時、ラーメンのだしといえば鶏ガラや豚骨が主流で魚のだしといえば、カタクチイワシの煮干し程度だったというが「唯一無二のラーメンを作りたい」と川魚や海水魚を使ったスープ作りを開始した。各地のラーメンを食べ歩き改めて「和風系ラーメンのうまさに気付かされた」のも理由だった。
「唯一無二を作りたい」
最初は栃木県内でもよく食べられる鮎を使ったラーメン作りに取り組んだがなかなかうまくいかず断念。取引があった鳥取県の水産会社社長から聞いた鯛の一夜干しがヒントとなり、鯛を使ってスープ作りが始まった。ただ実際にスープを作ってみると鯛だけでは味がまとまらない。試行錯誤の末に隠し味としてたどり着いたのが鶏肉のだしとの〝コラボ〟だった。鯛のうまみや香りを損なわないように鯛と鶏肉とのバランスをとるのに最も苦労したというが、間もなく「鯛らーめん」が完成。コンテストに間に合わせることができた。
コンテストには全国から約340人が出場しラーメン職人らが腕を競う中、落合さんの「鯛らーめん」は準優勝に輝いた。当時は本格的な魚だしスープのラーメンは全国的にも少なく特に鯛ラーメンでは〝元祖〟的な存在となった。
落合さんは「生涯、ラーメン職人として挑戦者でいたい」というのがモットーで、今も意欲満々。
今年6月、約25年ぶりに開催された「ラーメン登龍門」第2回大会には数年前に完成させた「鮎らーめん(みそ)」で挑戦。最終選考会の8人に残り、入賞を果たした。
「四半世紀にわたり、多くの人に鯛ラーメンを食べていただき、本当にありがたい」と落合さん。「出前もちから始まったラーメン屋人生。決して順風満帆ではなかったが、これからも唯一無二のラーメンを作っていきたい」と話し、新作のノドグロやアマダイのラーメン作りに奮闘中だ。(伊沢利幸)