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平時は防災教育の場、災害時は避難場所 西日本豪雨の教訓生かした隈研吾さん設計の公園

産経ニュース 2024年7月19日 10時0分

平成30年7月の西日本豪雨による河川氾濫で一帯が水没し、甚大な被害に見舞われた岡山県倉敷市真備地区で、復興防災公園「まびふれあい公園」が開園した。本流の急激な水位上昇で支流の水が逆流する「バックウオーター現象」が発生、堤防がもっとも激しく決壊した小田川と高馬川の合流点付近にオープンした復興のシンボルだ。伊東香織市長は「子供たちが自然とふれあい元気に遊び人々が集う場、防災教育の場として、災害時には住民の避難場所として、有効に活用していきたい」と述べた。

平常時と災害時に活用できる公園を

公園は、もともと水田で、小田川流域で堤防が大きく決壊し地区に水が流れ込んだ場所にあたる。面積は4・5ヘクタールで、そのうち河川敷部分が1・7ヘクタールだ。

当時、真備地区の東側を北から南に流れる高梁川と、南部を西から東に流れる小田川の合流点や、小田川支流の高馬川、末政川で時間差的にバックウオーター現象が起き、地区内計8カ所で堤防が決壊、約1200ヘクタールが浸水し、建物の1階部分はほぼ水の下に沈んだ。死者52人、関連死23人、全壊4646棟など住宅被害5977棟の大きな被害となった。

平成30年秋、各地区のまちづくり推進協議会で実施した復興懇談会などで、治水対策や安全対策とともに、子供が遊べる場所、自然と触れ合える場所を求める声があがった。市は「平常時と災害時の両面で活用でき、地域の発展にもつながる公園」をテーマに、復興5カ年計画に盛り込んだ。

令和2年3月に基本計画が策定され、32社で施工。名称は公募で決まった。

町と川をつなぐ

公園には、子供たちがのびのびと遊べる広い公園を整備し住みやすさを高め、人口回復につなげる役割と、地震や水害発生時の1次避難所としての役割が期待されている。

被害の大きさや状況、その後の経緯など教訓をパネルや映像で伝えるとともに視察や防災学習などに利用できる多目的室「まなびのへや」と、防災備蓄倉庫・事務所の2棟が屋根で連結する建屋は「竹のゲート」と名付けられた。備蓄倉庫には約300人の一日分の食料や資材を備えている。

災害時に駐車場やヘリポートにもなる芝生広場にはマンホールトイレやかまどベンチ、ソーラーWi-Fiなどが備え付けられた。

西日本豪雨被災から丸6年となる7月6日を前に、住民ら約220人が参加し、開園式を実施。伊東市長は「イベントなどで住民が交流する場、防災に関する視察の場、真備の魅力を発信できる場といったさまざま活用をしてもらいたい」と呼びかけた。

設計に携わった世界的建築家の隈研吾さんによると、デザインのコンセプトは「町と川をつなぐ」。竹のゲートの中央通路が堤防と町並みの双方向に延びる。「真備特産の竹で曲線美を表現し、職人たちが細かい仕事を施し、自然と調和する素晴らしい工芸品のようなものができた。災害時に使っていただくには平常時から親しんでいただけることが大切」と、期待をこめた。

地元住民の思いも強い。真備地区まちづくり推進協議会連絡会の野田俊明会長は「あの時の悲惨さは今でも言い表されない」と振り返る。「有事の際にまず避難でき、みんなが集える場所ができたことは大きい。完全な復旧や復興に向けて、みんなで集まって進んでいきたい」と話した。

ソフト面の充実も

天皇、皇后両陛下は5月26日、全国植樹祭ご臨席の際に、公園をご訪問。最初の公式訪問者として被災の様子や復興復旧の経緯などの説明を受けられ、住民代表3人と面会もされた。

「住民を励ましてくださったことに心から感謝申し上げたい。住民にとって前に一歩向かっていく大きな力になった」と話す伊東市長。同公園開園と、3月の小田川合流部の約4・5キロ下流への付け替え工事の完了で、復興5カ年計画に区切りがついたとの認識を示す。伊東市長は、「付け替え工事完了後の数回のまとまった雨で水は問題なく流れ、住民に安心していただけたようだ」と明かした。

今後はソフト面の充実が課題。「支援が必要な人たちを支え、被災の経験や教訓を受け継ぎ地区の発展や他の被災地支援につなげることが重要」と、力をこめた。(和田基宏)

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